M&A事業承継

企業価値算定の落とし穴。M&A時に過大評価を防ぐ計算方法は?

テーマ
M&A、事業承継
執筆
公認会計士、投資銀行勤務

今回は、財務デューデリジェンスにおいて必ず見るべき論点について解説していきます。重要な論点として正常収益力・ネットデット・設備投資(CapEx)・運転資本・時価純資産がありますが、今回は正常収益力に関する記事になります。

公認会計士であり投資銀行勤務経験者である筆者が説明します。

M&A時の企業価値計算方法

M&Aで適正な企業価値の算定(バリュエーション)を行いたければ、「正常収益力」を導き出す計算方法をマスターしよう

M&Aの財務デューデリジェンス(FDD)を通して、適正な企業価値評価(バリュエーション)を行うのであれば、「正常収益力」を導き出すべき

正常収益力分析とは、売上高もしくはEBITDAに関して過去のイレギュラーな取引や営業外項目の影響を排除して企業の実質的・経常的な収益力を測定するために行うものです。

特に、M&Aにおける財務デューデリジェンスで最重要と言っても過言ではないほどにキーとなる分析項目であり、財務デューデリジェンスレポートのエグゼクティブサマリーに必ず記載される項目になります。

正常収益力を考慮した売上高およびEBITDAは、それぞれ正常化調整後売上高・正常化調整後EBITDAともよばれ、英語ではNormalized EBITDAもしくはAdjusted EBITDAと呼ぶことが多いと思います

 

正常収益力分析は英語ではQuality of Earnings Analysisといい、QoE分析として称されることも多いです。企業の過去の財務諸表において計上されている売上高にはイレギュラーな取引や、監査済財務諸表を基礎に計算されるEBITDA(Reported EBITDAといいます)に、他に考慮すべき項目・アドバックすべき項目を考慮し、計算することになります。

 

会計事務所が行う財務デューデリジェンスのケース以外にも、投資銀行が作成するインフォメーションメモランダム(セルサイド案件において対象会社の事業・財務について詳細に記載した資料)の財務パートにおいても、正常収益力を加味したEBITDAを反映した項目が記載されることが多いです。

実際に投資銀行のバンカーがインフォメーションメモランダムの財務パートを作成する際は、受領した売却対象企業の財務諸表を見ながら、過年度の異常な項目等を調整し正常収益力分析を進め、正常化調整後EBITDAを計算することが重要になります。

 

実際にはインフォメーションメモランダムにおいては調整後EBITDA(Adjusted EBITDA)とも記載されることもありますが、買収を検討している企業・プライベートエクイティファンドが最も気にする項目になるので、慎重に分析を進めていきます。

 

M&Aで企業価値を正しく計算するために、調整後EBITDAを用いる方法

企業価値を見たいなら、過去の財務諸表や事業計画をそのまま信じてはダメ。一時発生収益・費用の影響を取り除き調整後EBITDAで過大評価を防ぐ

一時発生収益・費用の影響を取り除き調整後EBITDAで過大評価を防ぐ方法

正常収益力分析は、非継続的な取引にかかる損益、会計処理の誤り等の調整を行い、正常化調整により会計処理の誤りや一時的・突発的な損益影響を排除した、企業のあるべき収益力を明らかにする分析です。過去の財務諸表や事業計画をそのまま信じてはダメなのです。

M&Aの場面で既に撤退を検討している事業の損益が過去の財務諸表に含まれていたりする場合は当該影響を排除して、財務分析およびバリュエーションをすすめないと全く意味のない数値が計算されてしまいますし、マルチプル法で企業の事業価値(EV)を計算する際に、正常化調整後EBITDAをベースにすることが実務ですので、M&Aにおいて価格交渉やバリュエーション実施において、正常収益力を正しく見極めることが重要なポイントになります。

 

ほかには、過去の財務諸表を基礎に財務デューデリジェンスを行い正常収益力考慮後のEBITDAマージンを基礎に財務モデルを作成する場合が考えられますし、DCF法において将来のプロジェクション期間にわたる正常収益力分析を考慮した後の売上高成長率、EBITDAマージンを採用してバリュエーションを実施することで、より現実味のある企業価値評価を行えます。

類似上場会社比較法もしくは、類似取引比較法によるマルチプルを用いて、事業価値を計算する際にも正常化調整後EBITDAを採用することが通常です。

 

>>次ページ:正常化調整を行う項目の例

Biz人 編集部Biz人 編集部

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