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1株当たり情報の理解と活用─EPS・DPS・BPSから学ぶ

テーマ
1株当たり情報
執筆
公認会計士

株式投資を行う際、投資家は企業の財務状況を評価する上で、1株当たり情報を参考にします。
この記事では、日本基準における1株当たり情報の概要と計算方法、そして活用方法について解説します。

1株当たり情報の種類と意義

1株当たり情報は、企業の財務成績を株主1人当たりに換算したもので、企業の収益性や安定性を評価するための指標として用いられます。

主な1株当たり情報には以下の3つがあります。

・1株当たり利益(EPS:Earnings Per Share)

・1株当たり配当(DPS:Dividend Per Share)

・1株当たり純資産(BPS:Book Value Per Share)




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1株当たり利益(EPS)の計算方法

1株当たり利益(EPS)は、企業の純利益を発行済み株式数で割ったものです。

EPSは企業の収益性を示す指標であり、高いほど企業の利益創出能力が高いと評価されます。

EPS = 純利益 / 発行済み株式数

例:企業Aの純利益が1,000万円、発行済み株式数が100万株の場合

EPS = 1,000万円 / 100万株 = 10円

 

▼「VRIO分析とは?自社の強みを分析するフレームワークを詳しく解説」はこちらの記事をご確認ください

1株当たり配当(DPS)の計算方法

1株当たり配当(DPS)は、企業が株主に支払う配当金を発行済み株式数で割ったものです。

DPSは企業の利益分配能力や安定性を示す指標であり、高いほど株主に対する還元が大きいと評価されます。

DPS = 配当金総額 / 発行済み株式数

例:企業Bの配当金総額が500万円、発行済み株式数が100万株の場合

DPS = 500万円 / 100万株 = 5円

 

▼「PEST分析とは?目的・必要性や分析のやり方について具体例を交えてわかりやすく解説!」はこちらの記事をご確認ください



1株当たり純資産(BPS)の計算例

1株当たり純資産(BPS)は、企業の純資産を1株あたりに換算したものです。

株主資本を株式数で割ることで求めることができます。ここでは、1株当たり純資産(BPS)の計算方法と具体的な計算例を紹介します。

1株当たり純資産(BPS)の計算方法:

BPS = (株主資本) / (発行済み株式数)

計算例:

ある企業A社の財務データが以下の通りだとします。

株主資本:1,000,000円

発行済み株式数:10,000株

この場合、1株当たり純資産(BPS)は以下のように計算できます。

BPS = 1,000,000円 / 10,000株 = 100円

この結果から、企業A社の1株当たり純資産は100円であることがわかります。

BPSが高いほど、企業の資産価値が高いと考えられます。ただし、BPSは企業規模や業種によって異なるため、同業他社や業界平均との比較が重要です。

BPSは、企業価値を評価する際の一つの指標として使われますが、それだけで企業を評価するのではなく、他の財務指標や業績動向なども合わせて考慮することが望ましいです。

本記事で紹介した1株当たり純資産(BPS)の計算方法と計算例を理解し、投資判断の一助として活用してください。

▼「株式の目的とそれぞれの仕訳を知ろう~あなたが持っている株式の目的は?~」はこちらの記事をご確認ください

1株当たり情報の活用方法

1株当たり情報は、企業を比較する際に役立つ指標です。

同業他社との比較や業界平均との比較により、投資判断の一助となります。

EPSを比較することで、企業の収益性を把握できます。高いEPSを持つ企業は、利益創出能力が高いと考えられます。

DPSを比較することで、企業の利益分配や株主への還元度合いを評価できます。

高いDPSを持つ企業は、株主に対する利益還元が大きいとされます。

BPSを比較することで、企業の純資産を評価できます。

高いBPSを持つ企業は、資産価値が高いと考えられます。

希薄1株当たり利益の計算方法

希薄1株当たり利益(Diluted EPS)は、将来的に発行される可能性のある株式(例:ストックオプション、コンバーチブル社債など)を考慮した場合の1株当たり利益を示す指標です。

日本基準でも希薄1株当たり利益は一般的に記載されます。希薄1株当たり利益は以下のように計算されます。

希薄1株当たり利益(Diluted EPS) = (当期純利益 + 希薄効果の調整額) / (平均発行済株式数 + 希薄効果の増加株式数)

計算例:

ある企業A社の財務データが以下の通りだとします。

・当期純利益:1,000,000円

・平均発行済株式数:10,000株

・ストックオプションによる希薄効果の増加株式数:1,000株

この場合、希薄1株当たり利益(Diluted EPS)は以下のように計算できます。

希薄1株当たり利益(Diluted EPS) = 1,000,000円 / (10,000株 + 1,000株) = 90.91円

希薄1株当たり利益は90.91円となります。

この結果から、将来的に発行される可能性のある株式を考慮すると、1株当たり利益は低くなることがわかります。

1株当たり情報の注意点

1株当たり情報は有益な指標ではありますが、以下の点に注意して活用する必要があります。

・1株当たり情報は、企業規模や業種によって異なるため、同業他社や業界平均との比較が重要です。

・1株当たり情報だけで企業を評価するのではなく、財務比率や業績動向などの他の指標も合わせて考慮することが望ましいです。

・1株当たり情報は過去のデータに基づくため、将来の業績や企業価値については十分な予測ができません。将来の見通しを考慮した投資判断が必要です。

▼「企業価値算定の落とし穴。M&A時に過大評価を防ぐ計算方法は?」はこちらの記事をご確認ください

IFRSとUSGAAPと日本基準の1株当たり情報の違い

IFRS、USGAAP、および日本基準では、1株当たり情報の計算方法や表示方法に違いがあります。

これら3つの基準では、基本1株当たり利益(Basic EPS)と希薄1株当たり利益(Diluted EPS)が計算・表示されることが一般的ですが、その計算方法に若干の違いがあります。

IFRSおよびUSGAAPでは、希薄効果の調整額や希薄効果の増加株式数の計算方法が若干異なる場合があります。

また、日本基準では、希薄効果の調整額の計算方法がよりシンプルであることが一般的です。

これらの違いは、各国の会計基準や企業の特性によって生じます。

それに加えて、各基準での1株当たり情報の開示方法にも違いがあります。

例えば、IFRSでは、財務報告書の損益計算書に基本1株当たり利益と希薄1株当たり利益が表示されることが一般的です。

日本基準及びUSGAAPでは、財務報告書の注記に1株当たり情報が開示されます。

また、IFRSとUSGAAPでは、過去の会計期間の1株当たり情報の修正が行われることがあります。

これは、過去の期間の株式数が変更された場合や、企業の経営戦略や事業環境の変化により、過去の期間の1株当たり情報が現在の期間と比較可能でなくなった場合に行われます。

一方、日本基準では、過去の会計期間の1株当たり情報の修正は一般的ではありません。

これらの違いを理解することは、国際的な投資家にとって重要であり、異なる会計基準を持つ企業間で1株当たり情報を比較する際に注意が必要です。

IFRS、USGAAP、および日本基準における1株当たり情報の違いを把握し、適切な投資判断を行うことが求められます。

▼「中小企業にも必要?中小企業における内部統制の構築方法について解説!」はこちらの記事をご確認ください

まとめ

1株当たり情報は、企業の収益性や安定性を評価するための重要な指標です。

しかし、それだけで投資判断をするのではなく、他の財務指標や業績動向なども考慮して、総合的な判断を行うことが重要です。

本記事で紹介した1株当たり情報の計算方法や活用方法を理解し、投資判断の一助として活用してください。



Biz人 編集部

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