ブックレビュー

【要約】経営パワーの危機|戦略型経営者の実話に基づく戦略ストーリーの考え方

テーマ
経営パワーの危機
監修
読書マニア

本書の著者は、日本企業には経営者的人材が枯渇していると警鐘を鳴らします。会社のトップに立ってリーダーシップを発揮し、新たな事業の立ち上げや、赤字会社を再建できる経営人材が日本全体で枯渇しており、日本の経営に元気がない要因になっていると言います。

本書の初版は2003年ですが、約20年経過した現在でも状況は変わらないのではないでしょうか。日本企業の人事制度や、機能別組織によって優秀な人材がマーケティングや生産管理のような一つの職能のスペシャリストから抜け出せない組織形態が経営者的人材の育成を妨げている状況です。

本書の著者は、ボストン・コンサルティング・グループでコンサルタントを務めた後、社長として実際に2社の経営を行い、その後は企業再建のスペシャリストとして数々の赤字事業の再建を手掛けた人物です。そんな著者による本書では、架空の大企業である新日本工業の課長、伊達陽介が赤字子会社である東洋アストロンを再建するストーリーとなっています。小説調ながらも実際にあった出来事をベースとして、伝統的な日本企業の一課長が経営者的人材へと飛躍を遂げるプロセスを描いています。

 

【著書情報】

タイトル 経営パワーの危機会社再建の企業変革ドラマ
著者名 三枝匡
出版社 日経ビジネス
ページ数 505ページ
発売日 2003/3/1

 

【章立て】

第1章:袋小路

第2章:白旗あがる

第3章:混沌の世界

第4章:零への回帰

第5章:成功への絞り

第6章:試練の谷

第7章:飛翔の時

第8章:最後の関門

 

赤字子会社に乗り込む

本書の主人公である伊達陽介は大企業、新日本工業に努める36歳の課長です。新日本工業の社長である財津は、社内に経営者的人材が育っていないことに危機感を覚え、優秀な若手に経営者としての経験を積ませることを決断します。そこで、伊達陽介をに白羽の矢が立ち、赤字子会社の一つである東洋アストロンに送り込まれることとなりました。

経営者人材の育成には、優秀な人材に一通りの経営経験を積める環境を与え、トータルの経営判断を経験させる必要があります。営業、技術などの機能別の仕事でいくら大きな成果を残しても、全ての機能を統合して判断する必要のある経営者としての技量は身につかないのです。そこで、財津は伊達に一通りの経営経験を積ませるために、社長という立場で東洋アストロンへと送り出したのでした。

混沌に入り/出口を探す

経営者として赤字会社、東洋アストロンに乗り込んだ伊達陽介は、まずは社内に入り込んで問題解決の糸口を探します。全社員と面談を行い、今後の改革において信頼の置ける人物の選別に取り掛かりました。企業改革において、新任の経営者が社内に埋もれた気骨の人材を見抜くことができるかは改革の成否を左右します。

伊達は社内に幹部陣を形成すると、早速赤字幅の解消に向けての取り組みを開始します。破産寸前の会社でよくある赤字の原因は、商売の基本サイクルが適切に回っていないことです。商売の基本サイクルとは、「創って、作って、売る」の一回りであり、どんなビジネスでも基本的にはこのサイクルを顧客起点で早回しすることで優位性に繋がります。しかし、東洋アストロンではこの商売の基本サイクルがきちんと回せていない状態でした。

東洋アストロンのようなメーカーの場合、「創って、作って、売る」は、開発→生産→営業という組織が各機能を担うことが多いです。しかし、部門間のコミュニケーション不に不備があると、機能と機能の間でフン詰まりが発生し、商売の基本サイクルが適切に回らなくなるのです。この機能別の組織間のフン詰まりの解消はミドルには権限不足で、組織を上から見渡せる経営者が手を入れるべき問題となります。

伊達は経営者としてトップのリーダーシップを発揮し、組織間のフン詰まりを解消して商売の基本サイクルがきちんと回る組織体制を構築します。その結果、本書では粗利益率が大幅に改善し、経常利益でもトントンになっています。

このような組織再構築の改革を行う場合、社員を束ねるためには「ストーリー性」や「シナリオ性」が重要になります。戦略にストーリー性やシナリオ性を持たせることで、トップからミドルまでの全員の頭の中で会社の活動が繋がり、会社の向かう方向にそれぞれが腹落ちします。そしてそれが更に下の若い社員の意識も束ねることで全社のベクトルが合ってくるのです。経営者の仕事とは、ロジックによって裏打ちされた全体絵を描き、それをシナリオ、ストーリーとして社員に提示、納得させることにあります。

成功のために選択肢を絞る

経営者として東洋アストロンに降り立ち、社内の業務フローを一網打尽に改善することで収支をトントンに戻した伊達は、次なる成長の柱を探し始めます。製造業である東洋アストロンを成長路線に乗せるためには、新しい製品の開発戦略を立てる必要がありました。

新商品の開発において、最も重要なことは「絞り」であると言います。特に、東洋アストロンのような、人的・資金的リソースに限りのある企業ではなおさらです。また、新製品開発の議論がオープンに行われることは良いことですが、新商品はきちんとしたロジックで裏付けた上で開発の決断を下さなければいけません。

そこで、伊達は経営リーダーとして開発戦略の一枚絵を示します。それが下記の図表1のようなマトリックスです。

【図表1】経営リーダーとして開発戦略

縦軸に技術難易度・製品特殊度を取り、横軸に販売台数を取った縦横3マスのマトリックスです。伊達はこのチャートを使って、現在は特殊性が高く販売台数の少ない商品を扱う東洋アストロンが目指すべき場所を示しました。成長路線に乗るために、途中でパンクするかもしれない愚かな道は避けなければいけません。そこで、最適な「考え方」、戦略的な「思想」を示すことが経営者の役割になります。

東洋アストロンではこのチャートを使い、まずはセグメント2を目指します。大企業との競争が想定されるセグメント3は、魅力的ではあるものの経営体力の少ない企業が挑戦するにはリスクが大きすぎます。そこで、セグメント2を経由してセグメント1を目指すというのが東洋アストロンの描く成長戦略でした。

この成長戦略に沿って、東洋アストロンは開発を手掛ける製品を一品に絞る、究極の絞りを実行します。選択肢の絞りは非常に重要な経営判断ですが、絞りすぎると一か八かリスクが高まるため、どこまで絞るかは経営者が常に頭を悩ませる問題です。しかし、伊達は自身で描いた開発戦略ストーリーに合致する新製品の開発にリソース投下を一本化し、結果的に東洋アストロンの成長を牽引する新製品に仕立てます。

経営者の最後の壁

本書の主人公、伊達陽介は経営者として赤字会社の改革を行い、新商品の開発によって成長戦略を軌道に乗せてきました。しかし、経験豊富な経営者はこれだけでは出来上がらりません。経営者には高すぎる成長率のコントロールという最後の壁があるのです。

組織の構築が事業の成長に追いつかず、既存の人員が忙しくなりすぎると組織にギスギス感が生まれます。そこで経営トップには成長管理の考え方が求められます。更なる成長を追いかけることのできる組織構築が必要であり、それをおざなりにしてしまうとストレッチしすぎた組織は悲鳴を上げて崩壊します。そのため、経営者には成長を追うための組織体制の構築、特に社内に適切な経営陣を形成することが求められます。

本書においても、東洋アストロンを成長軌道に導いた伊達陽介は経営者としての最後の壁にぶつかります。開発した新商品の成功によって売上規模を大きく拡大した後、伊達は更なる売上規模拡大を目指していました。しかし、社内の経営体制の構築は遅れていたため、伊達自身の仕事も増えて社内の問題解決に手が回らなくなります。

また、伊達は赤字だった会社を再建に導いたことで自信をつけ、得意になっていました。その結果、東洋アストロンをV字回復に導いた伊達のリーダーシップがネガティブな方向に働き、独裁の様相を帯びていきます。周りから褒めそやされ、自信をつけた経営者が過去の成功と同じように走りぬけば何でも可能だと思い込み、部下もついてくると信じ込むのは危険な関門に陥るパターンです。伊達もこの領域に足を踏み入れたのでした。

しかし、そんな伊達に親会社である新日本工業の社長、財津が雷を落とします。財津との対話をきっかけに伊達は自身が天狗になっていたことを自認し、経営者としての最後の関門を乗り越えるのでした。本書で伊達が経験した、経営者として「創って、作って、売る」のサイクルを一通り回す権限を与えられ、その中で失敗や成功経験を積むことこそが、日本で枯渇している経営者的人材の育成に必要なプロセスなのです。

Biz人 編集部Biz人 編集部

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