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資産除去債務とは?概念から会計処理を解説!

テーマ
資産除去債務とは?
執筆
公認会計士

資産除去債務は、企業が将来の資産の除去や廃棄に関連するコストを見込んで発生する債務のことです。

本記事では、資産除去債務の概念と会計処理について、日本基準に基づいて解説します。

 


資産除去債務とは何か?

資産除去債務は、企業が固定資産や無形資産を取得・構築した際に、将来の廃棄・除去に伴うコストを見越して計上する債務です。

例えば、原子力発電所や化学工場など、特定の施設の建設・運用に関連して法令上の義務が生じる場合があります。

資産除去債務は、企業会計基準第18号「資産除去債務」に基づいて計上されます。

資産除去債務の会計処理方法

初期計上の方法

資産除去債務は、関連する資産の取得・構築時に計上されます。

初期計上時には、資産除去債務に相当する金額を、関連する資産の原価に加算し、その資産の減価償却費に反映させます。

資産除去債務の見積額の変更方法

資産除去債務の見積額が変更された場合、その変更額を資産原価に加算・減算し、残存期間にわたって減価償却費に反映させます。

また、見積額の変更によって生じる利益・損失は、当期の損益に計上します。


資産除去債務の計算例

以下に、資産除去債務の計算例を示します。

例1の計算

建設コスト1,000万円の工場を建設し、将来の除去費用として500万円が見込まれる場合。

工場の原価は、建設コスト1,000万円+資産除去債務500万円=1,500万円となります。

この原価に基づいて減価償却費が計算されます。

例2の計算

建設コスト1,000万円の工場を建設し、将来の除去費用が最初は500万円と見積もられたが、その後法令の変更などで800万円に見積もりが変更された場合。

この場合、資産除去債務の見積額が300万円(800万円 – 500万円)増加します。

そのため、工場の原価は、建設コスト1,000万円+資産除去債務800万円=1,800万円になります。

原価の変更額を残存期間にわたって減価償却費に反映させます。

例3の計算

建設コスト1,000万円の工場を建設し、将来の除去費用が最初は500万円と見積もられたが、その後技術革新により300万円に見積もりが変更された場合。

この場合、資産除去債務の見積額が200万円(500万円 – 300万円)減少します。

そのため、工場の原価は、建設コスト1,000万円+資産除去債務300万円=1,300万円になります。

原価の変更額を残存期間にわたって減価償却費に反映させます。

資産除去債務に注意すべき点

資産除去債務の計上に際しては、以下の注意点があります。

  • 資産除去債務の見積額は、適切な方法で算定する必要があります。

そのため、企業は、将来の除去費用を正確に見積もるために、法令や技術革新などの変更を適時に把握し、見積もりを更新する必要があります。

  • 資産除去債務は、企業の負債として計上されます。

そのため、資産除去債務の増加は、企業の財務状況を悪化させる要因となります。企業は、資産除去債務の適切な管理を行い、財務状況の悪化を防ぐことが重要です。

 


資産除去債務の公開情報開示について

資産除去債務に関する公開情報開示は、投資家や利害関係者に対して企業の財務状況やリスク要因を適切に伝えるために重要です。

この章では、資産除去債務に関する公開情報開示の要件や、適切な開示方法について解説します。

資産除去債務の総額の開示方法

企業は、資産除去債務の総額を開示する必要があります。

これには、期首残高、期中の増加や減少、および期末残高などの情報が含まれます。

開示に際しては、資産除去債務の内訳や、それぞれの債務に対する未来のキャッシュフローの割引率など、具体的な計算方法に関する情報も併せて示すことが求められます。

資産除去債務に関連するリスク要因の開示

資産除去債務には、さまざまなリスク要因が関連しています。

企業は、資産除去債務に関連する主要なリスク要因を開示し、それらが企業の財務状況や業績にどのような影響を与える可能性があるかを説明する必要があります。

リスク要因の例としては、規制の変更、技術の進歩、市場状況の変化などが挙げられます。

その他の開示すべき事項

資産除去債務に関連するその他の開示事項として、以下のような情報が考えられます。

  • 資産除去債務の見積もりの変更や、将来のキャッシュフローの予測の修正に関する情報
  • 資産除去債務の解消に関する計画や進捗状況
  • 資産除去債務に関連する保証金や担保の状況

資産除去債務と国際会計基準(IFRS)

日本基準と異なり、国際会計基準(IFRS)では、資産除去債務の取り扱いが独自の基準で規定されています。

この章では、日本基準とIFRSの資産除去債務の会計処理の違いを比較し、IFRSにおける資産除去債務の計上・測定方法や、減損検討の手順について解説します。

IFRSにおける資産除去債務の計上・測定方法

IFRSでは、IAS 37「将来の負債および将来の資産」に基づいて資産除去債務の計上・測定が規定されています。

IFRSでは、資産除去債務は、企業が法的または事実上の義務を負っており、それによって将来の経済的利益の流出が生じることが確実であり、その金額が信頼性をもって測定可能である場合に計上されます。

資産除去債務の測定は、適用される割引率を用いて現在価値で行われます。

IFRSにおける減損検討方法

IFRSでは、IAS 36「資産の減損」に基づいて資産の減損検討が行われます。

日本基準と同様に、資産除去債務と関連する資産の組み合わせが将来のキャッシュフローを生成する能力を喪失した場合、資産の減損が発生する可能性があります。

IFRSでは、資産の減損損失は、資産の帳簿価額と回収可能額(使用価値または公正価値のうち高い方)との差額として計算されます。

日本基準とIFRSの資産除去債務に関する違い

日本基準とIFRSにおける資産除去債務の会計処理の主な違いは、以下の通りです。

計上基準の違い

IFRSでは、法的または事実上の義務が存在し、将来の経済的利益の流出が確実であり、金額が信頼性をもって測定可能である場合に計上されます。

一方、日本基準では、確定的な将来の負担が生じると判断される場合に計上されます。

測定方法の違い

IFRSでは、現在価値で測定されることが一般的ですが、日本基準では、適用される割引率によって計算される将来のキャッシュアウトフローの現在価値で測定されます。

また、IFRSでは、将来のキャッシュフローの予測において、最も確率の高いシナリオを用いることが一般的ですが、日本基準では、複数のシナリオを考慮して測定されることがあります。

 減損検討の違い

IFRSでは、IAS 36「資産の減損」に基づいて資産の減損検討が行われますが、日本基準では、資産除去債務と関連する資産の組み合わせに対して減損検討が行われます。

 

これらの違いを理解し、適切な会計処理を行うことが重要です。

特に、国際的な取引を行う企業や、IFRSに準拠する企業は、日本基準とIFRSの違いを把握し、適切な会計処理を行うことが求められます。

まとめ

資産除去債務は、企業が固定資産や無形資産を取得・構築した際に、将来の廃棄・除去に伴うコストを見越して計上する債務です。

日本基準に基づいて、資産除去債務の初期計上、見積額の変更に伴う会計処理を行います。また、様々なパターンの計算例を通じて、資産除去債務の会計処理を理解することができます。

企業は、資産除去債務の見積額を適切に算定し、その変更を適時に反映させることが求められます。また、資産除去債務の適切な管理が、企業の財務状況を維持する上で重要となります。資産除去債務は、企業会計において重要な概念であり、企業の経営者や財務担当者は、その取り扱いに注意を払うことが必要です。

本記事で解説した資産除去債務の概念と会計処理について理解し、適切な会計処理を実践していくことが重要です。

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