経理/簿記試験

KAMとは~監査報告書の解説~

テーマ
KAMとは
執筆
公認会計士


監査報告書は、企業の財務諸表に対する監査人の意見を示す重要なドキュメントです。

近年、監査報告書には「KAM(Key Audit Matters)」が導入され、より具体的な情報が開示されるようになりました。

本記事では、日本基準(JGAAP)をベースに、KAMについて解説し、監査報告書の理解を深めることを目的としています。

KAMとは?

KAM(Key Audit Matters)は、「重要な監査事項」と訳され、監査報告書に記載される新たな情報です。

KAMは、監査人が監査過程で特に重要だと判断した事項を開示し、投資家やステークホルダーに対して、企業の財務諸表に関連するリスクや監査上の課題を明確に伝えることを目的としています。

 



▼「簿記で出題される社債の抽選償還とは?計算方法や仕訳方法をわかりやすく解説!」はこちらの記事をご確認ください

KAM導入の背景

KAMの導入は、国際監査基準(ISA)における「ISA 701 重要な監査事項の特定および監査報告書への記載」の制定を受けて行われました。

日本では、日本の監査基準である「新監査報告書の様式に関する監査基準(以下、新監査報告書様式基準)」が2019年4月1日以降の決算期から適用され、KAMが監査報告書に記載されるようになりました。

 

KAM導入の背景には、以下のような要因があります。

・投資家やステークホルダーからの情報開示要求の高まり

・国際的な監査基準の整備と調和

・企業の経営状況やリスクへの理解を深めるための情報提供

KAMの決定方法

KAMは、監査人が監査過程で遭遇した事項の中から、特に重要と判断される事項を選定します。

KAMの選定は、監査人の専門的判断に基づくため、一定の主観性が含まれますが、「新監査報告書様式基準」において、以下のような要素を考慮してKAMを決定することが求められています。

(1) 財務諸表に関連するリスクの程度

(2) 監査の計画や実施における重要性

(3) 監査証拠の取得に関する難易度

(4) 監査人の専門的判断の適用度合い

(5) その他、監査人が特に重要だと判断する事項

KAMの監査報告書への記載

KAMが選定された場合、監査報告書に以下の情報が記載されます。

(1) KAMの概要

(2) KAMに関連する財務諸表の項目や金額

(3) 監査人が実施した監査手続きの概要

(4) 監査人が得た監査証拠に基づく結論

これにより、投資家やステークホルダーは、企業の財務諸表に関連するリスクや監査上の課題について、より具体的な情報を得ることができます。


KAMと監査意見の違い

KAMと監査意見は、監査報告書に記載される情報ですが、その目的や内容は異なります。

監査意見は、監査人が企業の財務諸表に対して表明する意見であり、適正か否かの判断が含まれます。

一方、KAMは、監査過程で特に重要だと判断された事項を開示するもので、監査意見とは独立した情報です。

▼「企業価値算定の落とし穴。M&A時に過大評価を防ぐ計算方法は?」はこちらの記事をご確認ください

日本の監査基準におけるKAMの位置づけ

日本の監査基準において、KAMは「新監査報告書の様式に関する監査基準」に基づいて記載されます。

この基準は、企業の財務諸表監査において監査報告書の形式や内容が適切であることを確保するために設けられています。

▼「中小企業にも必要?中小企業における内部統制の構築方法について解説!」はこちらの記事をご確認ください

KAMと企業のリスク管理

KAMの導入により、企業は自社のリスク管理にも一層注力するようになりました。

KAMは、監査人が特に重要と判断した事項を開示するため、企業はこれらの事項に対してリスク対策を講じることが求められます。

企業は、KAMに関連するリスクの特定・評価、内部統制の整備、リスク対策の策定・実施、そして定期的なリスク監視を行うことが重要です。

これにより、企業は自社のリスク管理能力を向上させるとともに、投資家やステークホルダーに対して信頼性の高い財務諸表を提供することができます。


KAMと国際会計基準(IFRS)・米国基準(US GAAP)

KAMは、国際会計基準(IFRS)や米国基準(US GAAP)といった他の会計基準においても導入されています。

各国の監査基準は、それぞれの国の法令・規制や経済状況に適合するように設計されていますが、KAMの導入により、監査報告書の国際的な比較・分析が容易になりました。

IFRSやUS GAAPでは、KAMの概念や選定基準は日本基準と類似しており、監査人が特に重要と判断した事項を開示することが目的です。

ただし、具体的な適用方法や記載内容には、各国の監査基準や法令・規制の違いが反映されるため、注意が必要です。

投資家やステークホルダーは、KAMを含む監査報告書を比較・分析することで、企業の財務諸表に関するリスクや監査上の課題を国際的な視点で把握することができます。

これにより、より適切な投資判断や企業評価が可能となります。

▼「M&Aで運転資本/Net Working Capitalに注目すべき理由とは?」はこちらの記事をご確認ください

KAMの将来展望とその影響

KAMは、監査報告書の情報開示において革新的な変化をもたらしました。

今後、監査基準や情報開示の要求がさらに進化することが予想される中で、KAMはどのように発展し、企業や投資家にどのような影響を与えるのでしょうか。

将来的には、KAMの選定基準や記載方法がさらに洗練され、企業ごとに特徴的なリスクや課題がより明確に開示されることが期待されます。

また、企業は、KAMに関連するリスク対策の進化や、新たなリスク要因の発見・評価を通じて、より効果的なリスク管理を実現できるようになるでしょう。

投資家やステークホルダーにとっては、KAMの情報がさらに充実し、企業の財務諸表のリスクや監査上の課題をより詳細に把握できるようになることで、投資判断や企業評価がより正確かつ迅速に行えるようになるでしょう。

また、KAMの国際的な普及により、各国の監査基準がさらに整備・調和され、企業間の財務諸表の比較・分析が容易になることが期待されます。

これにより、国際的な投資家やステークホルダーが、各国の企業に対する適切な投資判断や評価を行いやすくなるでしょう。

KAMの導入は、企業、監査人、投資家、ステークホルダーすべてにとって、新たな価値をもたらす可能性があります。

今後のKAMの発展とその影響に注目しつつ、適切な情報開示やリスク管理が重要であることを念頭に置くことが求められます。

▼「セグメント注記とは?概念から作成方法まで徹底解説!」はこちらの記事をご確認ください

まとめ

KAM(Key Audit Matters)は、監査報告書に記載される新たな情報で、監査人が特に重要だと判断した事項を開示します。

日本では、2019年4月1日以降の決算期から「新監査報告書の様式に関する監査基準」に基づいてKAMが監査報告書に記載されるようになりました。

KAM導入の背景には、投資家やステークホルダーからの情報開示要求の高まりや国際的な監査基準の整備・調和があります。

KAMの決定方法は、監査人の専門的判断に基づき、財務諸表に関連するリスクや監査の計画・実施の重要性などを考慮して選定されます。

監査報告書には、KAMの概要や関連する財務諸表の項目・金額、実施した監査手続きの概要、得た監査証拠に基づく結論が記載されます。

KAMと監査意見は、共に監査報告書に記載される情報ですが、目的や内容が異なります。

監査意見は企業の財務諸表が適正かどうかの判断が含まれるのに対し、KAMは監査過程で特に重要と判断された事項を開示することを目的としています。

KAMの導入により、投資家やステークホルダーは企業の財務諸表に関連するリスクや監査上の課題について、より具体的な情報を得ることができます。

これにより、企業の経営状況やリスクへの理解が深まり、より適切な投資判断が可能となります。

企業は、適切な情報開示を通じて、信頼性の向上や投資家との良好な関係を築くことが求められます。


Biz人 編集部 経理応援隊/簿記応援隊

経理実務や簿記の試験対策に役立つ知識を提供します。

人気Articles

  1. 仮払金とは何?間違えやすい勘定科目も一挙解説!

  2. 前受金・前払金・前受収益・前払費用を覚えよう!

  3. 不動産投資で絶対失敗しない!損しないためのプロの視点

  4. 経理の仕事は何に役立っているの?仕訳処理とその活用方法を解説!

  5. D2Cとはなに?鍵となるマーケティング戦略についてわかりやすく解説!

  6. 簿記3級合格のための勉強ルーティーン

  7. 従業員の給与の仕訳方法は?税金・保険料・会社独自の会費などの処理方法は?

  8. 消費税の計算で失敗しない仕訳とは?

  9. 親会社・子会社の帳簿をまとめた連結決算とは?連結決算の基本である『のれん』を解説!

  10. 「簿記3級|貸借対照表・損益計算書作成問題」を解く力とは?簿記は一日にして成らず