経理/簿記試験

税効果会計の分類とその理解

テーマ
税効果会計の分類
執筆
公認会計士


税効果会計は、企業の会計報告において税金効果を適切に反映させるための手法です。

日本基準において、企業会計基準適用指針26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」では、繰延税金資産の回収可能性に関する5つの分類が示されています。

本記事では、それぞれの分類について解説し、税効果会計の理解と活用が容易になることを目指します。

税効果会計の5つの分類

企業会計基準適用指針26号によると、繰延税金資産の回収可能性に関して各企業は5つの分類に区分されます。

それぞれの企業がどの区分に該当するのかは、各企業が指針に照らしながら検討することとなります。

分類1

分類の要件

以下の要件をいずれも満たす企業

  • 過去(3年)および当期のすべての事業年度において、期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じている。
  • 当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない。

(繰延税金資産の計上額)

原則として、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする。

具体例

ある企業が、過去3年間および当期のすべての事業年度で期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を上げており、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない場合、分類1に該当します。

分類2

分類の要件

以下の要件をいずれも満たす企業

  • 過去(3年)および当期のすべての事業年度において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が、期末における将来減算一時差異を下回るものの、安定的に生じている。
  • 当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない。
  • 過去(3年)および当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない。

(繰延税金資産の計上額)

・一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。

・スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産の取扱いは以下のように定められている。

<原則>

回収可能性がないものとする。

<容認>

税務上の損金の算入時期が個別に特定できないが、将来のいずれかの時点で損金に算入される可能性が高いと見込まれるものについて、将来のいずれかの時点で回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合、回収可能性があるものとする。

 

具体例

新規事業が立ち上げられ、将来的な収益性が高いと見込まれる場合、税損失の繰越が分類2に該当します。

分類3

分類の要件

(分類4)の2または3の要件を満たす場合を除き、次の要件をいずれも満たす企業

  • 過去(3年)および当期において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している。
  • 過去(3年)および当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない。

繰延税金資産の計上額)

<原則>

将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)以内の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、当該見積可能期間の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする

<容認>

上記にかかわらず、5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。

容認規定に該当するかの説明の際は、以下の事項を勘案します。

・臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因

・中長期計画(おおむね3年から5年の計画を想定している)

・過去における中長期計画の達成状況

・過去(3年)および当期の課税所得の推移

 

具体例

研究開発投資を行い、将来的な特許権取得による投資税額控除が見込まれる場合、分類3に該当します。

分類4

分類の要件

次のいずれかの要件を満たし、かつ、翌期において一時差異等加減算前課税所得が生じることが見込まれる企業

  • 過去(3年)または当期において、重要な税務上の欠損金が生じている。
  • 過去(3年)において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実がある。
  • 当期末において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる。

(繰延税金資産の計上額)

<原則>

翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、翌期の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。

<容認>

(分類4)の要件に該当する場合であっても、以下を勘案して、将来の一時差異等加減算前課税所得の十分性を企業が合理的な根拠をもって説明する場合には、将来における一時差異等加減算前課税所得の十分性を説明できる期間に基づき、(分類2)または(分類3)として取り扱う。

・重要な税務上の欠損金が生じた原因

・中長期計画(3~5年を想定)

・過去における中長期計画の達成状況

・過去(3年)および当期の課税所得または税務上の欠損金の推移等

将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合、(分類2)に該当するものとして取り扱う。

将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合、(分類3)に該当するものとして取り扱う。

具体例

事業環境の変化により、従来の事業が将来的に利益を上げることが不確実となった場合、関連する一時差異は分類4に該当します。

分類5

分類の要件

以下の要件をいずれも満たす企業

  • 過去(3年)および当期のすべての事業年度において、重要な税務上の欠損金が生じている。
  • 翌期においても重要な税務上の欠損金が生じることが見込まれる。

(繰延税金資産の計上額)

・原則として、回収可能性はない。

具体例

業績が低迷し、将来的な利益の回復が見込まれない企業の場合、税損失の繰越や投資税額控除は分類5に該当します。

 

▼「商品有高帳とは?先入先出法や移動平均法について例題を用いてわかりやすく解説!」はこちらの記事をご確認ください


まとめ

税効果会計は、企業の会計報告において税金効果を適切に反映させるための重要な手法です。

企業会計基準適用指針26号では、繰延税金資産の回収可能性に関する5つの分類が示されており、企業は適切な分類を行うことで、税効果会計の適用による影響を正確に把握し、適切な会計報告を行うことができます。

また、容認規定によって、繰延税金資産の回収可能性の評価が緩和されることもあります。企業は、これらの規定を適切に理解し、活用することで、より正確な会計報告が可能となります。

 

▼「消費税の仕訳方法は?会計処理で気を付けるポイントをわかりやすく解説!」はこちらの記事をご確認ください

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