減損とは? 資産が将来生み出す価値が著しく目減りしたなら減損
貸借対照表で正しく資産を認識するには、その資産の価値を見極める必要あり
減損会計とは、投資した金額を回収できないと判断したときに、今後の回収可能金額まで固定資産の価値を減少させることを言います。減損会計を理解するためには、固定資産がそもそもどういうものかを理解する必要があります。固定資産について、このように理解している方がいらっしゃるのではないでしょうか。「100万円の資産を買った。これは100万円の価値があるから、貸借対照表に100万円計上する。」これはこれで真実なのですが、もう一つの意味があります。買った時に支払った金額は100万円なのですが、これは、100万円の将来への投資、という意味です。
また、減価償却費についてもこのように考えている方がいらっしゃるのではないでしょうか。「資産は毎年使用するのだから、価値が減少していく。この価値の減少が、減価償却である。」これもこれで真実なのですが、減価償却にももう一つの意味があります。上記の例でいうと、100万円の資産を10年に渡って10万円ずつ減価償却していくとします。それはつまり、10年かけて使われることで、会社の業績に貢献しているということです。この会社への貢献が、毎年の10万円の費用計上の意味になります。
もう一度、具体例を用いて考えてみます。製造業のある会社で、期末に100万円の機械を購入しました。なぜこの100万円の機械を購入するかというと、この機械を導入することによって、新しい製品を製造することができるようになるからです。この新しい製品の売上は毎年20万円が見込まれています。
機械を購入した期の貸借対照表には、機械100万円が計上されました。
その次の期の貸借対照表は、機械については減価償却により90万円となります。損益計算書には、20万円の売上と、10万円の減価償却費が計上されます。
単純な例での説明になりましたが、この100万円の機械を購入することによって、20万円×10年間で200万円の売上を上げることができれば、100万円投資を行って、回収することができた、と言えます。この投資は10年かけて回収されましたが、毎年10万円ずつの減価償却費は、買った時に支払った100万円を、投資の回収期間である10年に配分していると言えます。
購入当初の貸借対照表を考えてみます。貸借対照表に機械が100万円計上された、ということは、将来、この100万円によって、さらなる売上が計上されるのだな、と考えることができます。これは固定資産に限らず、現金預金についても、それを使って、例えば広告宣伝をすることで売上を増加させることができます。棚卸資産も、現時点で貸借対照表に計上されているものは、翌期以降に販売されることをあらわしています。貸借対照表は、将来をあらわしている、と言われるのは、こういうことです。
貸借対照表への資産計上は、将来の投資の回収をあらわすことになるため、逆に、将来投資が回収されないことが分かっているのであれば、それを反映しないといけません。これをするのが、減損会計になります。
具体例で考える
先ほどの例で、20万円×10年の200万円の売上を見込んでいましたが、購入した翌年の時点で、6年目以降、その製品を引き取ってもらえないことが決定したとします。そうすると、今後の売上は、20万円×4年の、80万円になります。貸借対照表には、90万円の機械が計上されていますが、将来80万円しか回収できないことがわかっているのに、それを上回る90万円のままにしておくのは、今後の投資の回収を適切に反映しているとは言えません。そこで、10万円を、損失として計上します。減損損失をイメージしやすいようにした簡潔な例になります。
減損処理のステップとは?
減損を行うかどうかの判定は、毎期末に行うことになります。減損会計を適用するときの具体的な流れは、以下の手順です。
減損会計の手順
①資産のグルーピング
②減損の兆候の把握
③減損の認識の判定
④減損損失の測定
詳細は、会計基準にあるため、ここでは、それぞれのステップで考えるべきことをイメージしやすいように、簡潔に記載しています。
ステップ1.資産のグルーピング
実際にキャッシュを発生させるものが何かと考えた時に、機械単独ということはなかなかありえません。工場があって、いくつもの工程を得て製品ができ、それを販売することによってキャッシュが得られます。そのため、複数の固定資産をグルーピングする必要があります。逆に、会社全体、としてしまうと、ある固定資産は投資の回収ができないことが明確なのに、他の投資の回収が可能な資産によって、回収できない影響が消されてしまい、適切に判断できないこととなる場合があります。そこで、グルーピングの範囲は、「キャッシュを生み出す最小の単位」とされています。
ステップ2.減損の兆候の把握
減損の兆候とは、資産又は資産グループに減損が生じている可能性を示す事象のことを言います。減損会計とは、将来の投資の回収状況を反映させるものですが、将来を予測することは難しいです。ただ、すでにこれまでに営業損失が続いている状況であれば、今後も業績が悪く、投資の回収ができなくなるのでは、と考えることができます。そこで基準では「2期連続で営業損失又はキャッシュ・フローのマイナス」としています。ただし、当期の見込みが明らかにプラスとなる場合は、兆候ありとはしません。その他、経営環境の著しい悪化等があげられます。外部環境に大きな変化があった時は、将来の業績が悪化することが考えられるのではないか、ということです。
ステップ3.減損の認識の測定
減損の兆候ありと判断された場合、金額で減損損失を認識し、減損損失を実施する必要があるかどうかを判断します。具体的には、将来に発生するキャッシュ・フローを積み上げて、現在の帳簿価額と比較します。ここで、積み上げた将来に発生するキャッシュ・フローが現在の帳簿価額よりも下回るようであれば、減損処理を行う必要ありと判断します。
ステップ3.減損損失の測定
実際に、減損する金額を算定します。固定資産の帳簿価額を、回収可能価額まで引き下げるのですが、この引き下げる金額が、減損損失の金額になります。問題は、回収可能価額の算出です。回収可能価額は、使用価値又は正味売却価額のいずれか高い方です。使用価値とは、これから何年か使用することで発生するキャッシュを割引計算したもので、正味売却価額は、今処分したらいくらになるか、というものです。
まとめ
減損会計のイメージがわかなかった方も、貸借対照表に計上されるものは将来を示している、という概念を持てば、将来の投資の回収が難しくなったのだからそれを反映させよう、と考えることも理解しやすくなるのではないでしょうか。減損会計は将来を見積もる必要があるので、判断が難しい点があります。各ステップでも煩雑な要素があります。ですが、減損会計を検討することを通して、貸借対照表において会社の将来を表現する、ということの醍醐味を味わっていただきたいと考えます。