固定資産の売却に関する仕訳問題は日商簿記3級の中で難易度の高い問題です。なぜなら、決算時の減価償却処理を理解しているか、問題文より経過した年数を適切に把握できるか、売却損益を計算できるか、といった複数の論点が盛り込まれているからです。仕訳問題のみならず総合問題の一部としても出題されているので、苦手だと敬遠していた方にもぜひチャレンジしてほしい問題です。
まずは、最もオーソドックスな固定資産売却の問題です。減価償却の記帳方法には「間接法」と「直接法」の二種類があります。両方の処理方法を確認しましょう。
経理担当者なら取得したい!日商簿記3級でよくでる仕訳|固定資産の売却
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【目次】
間接法と直接法
不要になった備品を期首に30,000円で売却し代金は普通預金口座へ振り込まれた。なお、取得原価100,000円、前期末までの減価償却累計額68,000円であった。
間接法により処理している場合
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
②減価償却累計額 | 68,000 | ①備品 | 100,000 |
③普通預金 | 30,000 | ||
④固定資産売却損 | 2,000 |
よく出題されている「間接法」の問題ですが、減価償却の決算処理は次のとおりです。
決算時:(借方)減価償却費 〇〇 (貸方)減価償却累計額 〇〇
時間の経過とともに固定資産の価値が下がることを「減価償却」といいます。間接法では固定資産を直接減額させるのではなく、「減価償却累計額」として価値の減額を累計していきます。減価償却累計額は「資産の減少」を表しているので、常に貸方に計上されます。
①から④は仕訳の手順を示しています。
①固定資産を売却したので資産が減少します。
②「間接法」=「減価償却累計額」を使う方法です。売却した固定資産に対応する「減価償却累計額」が減少します。減価償却累計額は常に貸方に計上されている勘定科目なので、売却したら「借方」に記入するというところがポイントです。
③売却した代金を記入します。②を自分で計算するような問題の場合は、③の勘定科目と金額を先に記入しましょう。
④最後に、貸借差額で「固定資産売却損(費用)」または「固定資産売却益(収益)」を計算し記入します。貸借差額以外でも売却損益を計算できますのでご紹介します。
購入時は100,000円の備品でしたが、決算のたびに価値が減額されその累計額は68,000円でした。つまり、売却したときの備品の価値は32,000円(100,000円-68,000円)だと分かります。32,000円の価値の備品を30,000円で売却したので、売却損が2,000円発生する。ということになります。貸借差額での計算の検証としておすすめします。
直接法により処理している場合
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
普通預金 | 30,000 | 備品 | 32,000 |
固定資産売却損 | 2,000 |
同問題を直接法により処理した場合の解答です。まずは、直接法の決算処理を確認してみましょう。
決算時:(借方)減価償却費 〇〇 (貸方)備品(固定資産) 〇〇
直接法では「備品」「車両運搬具」「建物」など固定資産を直接減額させます。本問では、備品を100,000円で取得していますが、決算のたびに価値が下がった金額分が減額されていきます。売却した時点での備品の帳簿価額は32,000円(取得原価100,000円-減価償却累計額68,000)であるため、資産の減少として貸方に備品32,000円と記入します。直接法では減価償却累計額は使用しません。
続いて、固定資産を期中売却したときの処理方法です。上記の問題とは異なり、減価償却累計額を自分で計算し、さらに月割計算もからむという難易度の高い問題を解説します。
×2年9月22日に車両(取得原価432,000円、残存価額0円、耐用年数5年、間接法)を135,000円で売却し、代金は翌月末に受け取ることにした。なおこの車両は、×0年2月1日に購入したものである。決算は3月末日であり、取得年度および売却年度の減価償却費については月割計算による。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
①未収入金 | 135,000 | ②車両 | 432,000 |
③減価償却累計額 | 187,200 | ||
④減価償却費 | 43,200 | ||
⑤固定資産売却損 | 66,600 |
①から⑤は仕訳の手順を示しています。
①問題文中に「売却代金は翌月末に受け取る」とありますので、「未収入金(資産)」で処理をします。なお後で受け取る金額について、売却したものが商品であれば「売掛金」勘定を、商品以外の売却代金は「未収入金」勘定を使用するという違いに注意が必要です。
②間接法により処理しているため、売却により減少する車両の金額は取得原価432,000円です。
③減価償却累計額を求めるためには、車両を購入してから何度決算を行ったかを把握することが重要です。決算日は3月末日であることを踏まえて確認します。
取得日 ×0年2月1日
【1回目決算】×0年3月末日⇒取得から2ヵ月経過、2カ月分14,400円を減価償却計上(432,000円÷5年×2ヵ月÷12カ月)
【2回目決算】×1年3月末日⇒1年分86,400円を×0年度の減価償却費として計上
(取得原価432,000円÷耐用年数5年=86,400円)
【3回目決算】×2年3月末日⇒1年分86,400円を×1年度の減価償却費として計上
売却日 ×2年6月22日
つまり、【1回目】14,400円【2回目】86,400円【3回目】86,400円=187,200円が減価償却累計額の金額となります。
④直近の決算から売却した9月22日までの期間も車両を所有していたので価値が下がるため、減価償却を計上します。「月割計算によること」と指示がありますが、ここで迷うのが何カ月分の減価償却を計算するのか?という点です。22日とたとえ月の途中であっても1カ月と切り上げます。したがって、4月から9月までの6カ月分の減価償却を計算します。
取得原価432,000円÷5年×6カ月÷12カ月=43,200円
なお、この43,200円は×2年度の費用「減価償却費」として計上します。
⑤貸借差額で固定資産売却損66,000円を計上します。また、別方法によって検証します。車両の取得原価は432,000円です。減価償却累計額187,200円と減価償却費43,200円、合わせて230,400円価値が下がっています。売却時点での車両の価値は201,600円(432,000円-230,400円)となります。201,600円の価値の車両を135,000円で売却した、つまり66,600円の売却損が出たということです。
決算により何度減価償却をしたのかが重要なポイントです。タイムテーブルを書いて丁寧に時の流れを追って、〇回決算があった・月割計算は〇ヵ月と確認しましょう。時間がかかり遠回りのようですが、正解への一番の近道です。