ビジネスマンの会話で頻繁に登場する「在庫」。
ですが、いわゆる「在庫」が会計上どのように扱われているのかは、意外と知られていません。
この記事では、会計上の取り扱いについて、企業の具体例も示しながら解説します。
ビジネスマンの会話で頻繁に登場する「在庫」。
ですが、いわゆる「在庫」が会計上どのように扱われているのかは、意外と知られていません。
この記事では、会計上の取り扱いについて、企業の具体例も示しながら解説します。
【目次】
実は「在庫」という勘定科目はありません。在庫とは、企業が所有する商品や製品、仕掛品、原材料などを指します。会計上これらは「棚卸資産」として総称されます。棚卸資産は流動資産の項目です。
棚卸資産には以下のようなものがあります。
商品とは、販売を目的に他社から仕入れたものです。物品販売をおもな事業とする会社、たとえば小売業に多い勘定科目です。商品が具体的にどのような物品であるかは、会社によってさまざまです。ファミリーマートであれば食品や日用品、マツモトキヨシならば医薬品でしょう。重要なことは、商品とは、自社で製造していない他社が製造したものであるという点です。
商品については当サイト内の下記の記事も参考にしてください。
▼「商品有高帳とは?先入先出法や移動平均法について例題を用いてわかりやすく解説!」はこちらの記事をご確認ください
自社が製造した物品のうち、未完成のものを指します。決算時点で加工途中の製品を、完成品である製品と区別して、仕掛品として計上します。混同されやすいものに半製品があります。仕掛品と半製品の違いは、それ自体での販売や交換価値があるかどうかです。仕掛品はそれ自体では販売ができないものを指します。
なお、イベント運営会社など、サービス(役務)を提供する企業でも仕掛品勘定は用います。こちらについては当サイト内の下記の記事も参考にしてください。
▼「「役務収益・役務原価」が発生した場合の勘定科目と仕訳方法について」はこちらの記事をご確認ください
原材料は、自社の生産活動のために仕入れた素材や部品のことです。貯蔵品は、事業に使用するもののうち原材料ではないものを指します。たとえば未使用の事務用品、梱包資材、切手、燃料などです。一定額以内の工具も含まれます。
それでは具体的に、会社によってどのような棚卸資産が計上されているのかを見てみましょう。
会計基準にもよりますが、おおむね、連結貸借対照表や注記に棚卸資産の内訳が書かれています。各社の連結貸借対照表は有価証券報告書に収録されています。有価証券報告書は各社のウェブサイトのほか、電子情報開示システムであるEDINET(https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/week0010.aspx)でも入手することができます。
それではまず、製造業の代表例としてトヨタ自動車の棚卸資産の明細を見てみましょう。
同社の有価証券報告書内、連結貸借対照表の注記に記載されている内容は次の通りです。
トヨタ自動車の棚卸資産の明細(単位 百万円)
決算期 | 2021年3月31日 | 2022年3月31日 |
商品および製品 | 1,749,415 | 2,012,243 |
仕掛品 | 350,308 | 547,810 |
原材料 | 644,779 | 1,107,558 |
貯蔵品およびその他 | 143,526 | 153,745 |
合計 | 2,888,028 | 3,821,356 |
出所:2022年3月期トヨタ自動車株式会社有価証券報告書
トヨタ自動車の棚卸資産の明細には、商品、製品、仕掛品、原材料、貯蔵品と今回お伝えしたすべての棚卸資産項目が書かれています。完成品にあたる商品および製品が多額なのはもちろん、原材料の時点で相当の金額のものを保有していることがわかります。
続いて、小売業の代表例としてセブン&アイホールディングスの棚卸資産の明細を見てみましょう。
セブン&ホールディングスの棚卸資産の明細(単位 百万円)
決算期 | 2021年2月28日 | 2022年2月28日 |
商品及び製品 | 158,867 | 246,571 |
仕掛品 | 80 | 51 |
原材料及び貯蔵品 | 2,378 | 2,193 |
合計 | 161,325 | 248,815 |
出所:2022年2月期株式会社セブン&アイホールディングス有価証券報告書
セブンイレブンやイトーヨーカドーなどを展開するセブン&アイホールディングスは、棚卸資産のほとんどを商品及び製品が占めています。仕掛品がほとんどない点も特徴的です。セブンイレブンやイトーヨーカドーが自社で作っている製品というものが具体的に何を指すのか、有価証券報告書では明言されていません。業務内容から推測すると、小売店舗やグループ系列の飲食店の店内で製造している食品ではないかと思われます。
このように会社の事業によって、さまざまな物品が「在庫」として計上されます。
続いて、物品としては同じでも、会社の事業によって会計上の扱いが変わる例をご紹介しましょう。
マンションの販売や商業ビルのテナント誘致等を行う不動産業にとって、マンションや商業ビルという建物は「商品」として計上されます。多方、もし本社用に社屋を所有していた場合、その建物は会計上も「建物」として計上されます。
「商品」として計上されると棚卸資産ですので流動資産の区分です。一方、「建物」として計上されると有形固定資産という固定資産の区分になります。流動資産と固定資産の区分は、流動比率等の重要な財務指標に影響します。
1社だけではなく複数の企業にまたがるサプライチェーンを考えてみると、また違った視点を得られます。素材産業の企業は、自社で加工した「製品」を、上流のメーカーに販売しています。鉄鋼メーカーの鉄鋼を自動車メーカーが購入する、といった具合いです。つまり、下流メーカーの「製品」が一部の上流のメーカーにとっては自社の製品を作るための「原材料」となるわけです。
このほかに棚卸資産にまつわる面白い論点として、畜産業に関する議論があります。
全国農業経営コンサルタント協会・日本農業法人協会「農業の会計に関する指針」(https://hojin.or.jp/agri/post_36-html-2/)によると、同じ牛でも、その牛をどのように事業で活用するのかによって会計上の分類が異なります。
たとえば肉牛など、その牛を牛として販売する目的で保有している場合は「販売用動物」という勘定科目を用いて、棚卸資産に計上します。つまり、流動資産になります。
一方、乳牛は牛乳などの生産物を得る目的でその牛を保有しているので、「生物または育成仮勘定」という勘定科目を用いて、有形固定資産に計上します。あたかも工場の製造機械のような取り扱いをするわけです。有形固定資産ですので乳牛も減価償却の対象であると書かれています。
同じ牛は牛でも、所有目的で会計上の取り扱いがかわるのはおもしろいですよね。
なお、乳牛から採れた牛乳は、「農産物」あるいは「製品」として計上されます。
この記事では、在庫が会計上どのように扱われるか、棚卸資産の種類や具体例を挙げながら説明しました。ひとことに在庫といってもその中身はさまざまで、保有の経緯や保有目的などで細かく区分されていることがおわかり頂けたかと思います。
商品と製品の違い、事業内容によって変わる会計処理など、いくつかのポイントをおさえれば難しいものではありません。在庫の知識はビジネスで必ず役に立ちますし、「これは商品?製品?」と考えるようになると、普段の買い物も少し楽しくなるかもしれません。
▼「消費税の仕訳方法は?会計処理で気を付けるポイントをわかりやすく解説!」はこちらの記事をご確認ください