簿記3級の試験では、会計の幅広い基礎知識が出題されます。頻出論点のなかでもレギュラーである「貸倒引当金」。簿記を初めて学ぶ人にとっては、苦手意識を持ちやすいテーマですが、解けるようになると大きな武器になります。この記事では、貸倒引当金の本質を解説するとともに、苦手を得点源に変えるためのポイントを紹介します。一緒に「貸倒引当金」の論点を克服しましょう!
貸倒引当金はコレで怖くない!日商簿記3級合格の近道
- テーマ
- 日商簿記3級/日商簿記2級
- 執筆
- 日商簿記2級合格者
貸倒引当金と日商簿記
貸倒引当金とは? 日商簿記3級で出題される論点とは?
複数の計算方法がある、通常の貸借対照表とは逆の仕訳が発生するなど、何かとわかりにくいのが貸し倒れ引当金です。
多くの人は、概念はわかるものの、正しく仕訳や計算をできないという声も聞きます。今回の記事を通じては、この貸倒引当金の本質をりかいし、どのような状況でも正しく対応できるようにすることを目指します。
日商簿記3級で出題されやすい貸倒引当金は一般債権に関するもの
貸倒引当金とは、あらかじめ損失の可能性として計上しておく評価性引当金です。会計基準では、現実に回収不能となっていない段階でも、それを予測し引当金を計上することが求められています。倒産などにより、売掛金や受取手形などが回収できなくなった場合に備えて、あらかじめ計上しておく会計処理です。
貸倒引当金は、債務者の財政状態・経営成績から判断し、3つのランクに分けて貸倒見積高を算定する決まりがあります。簿記3級では、一般債権が出題されます。
・一般債権:特に問題のない債権
・貸倒懸念債権:支払いに重大な問題のある債権
・破産更生債権等:経営破綻している相手に対する債権
なぜ、貸倒引当金を設定するのか? 先送りしないという会計の考え方を理解すると簿記にもつながる
シンプルに言うと「適正な期間損益計算」のためです。貸倒引当金の正体とは、一定期間での正しい損益を算定するための評価勘定です。今年起こったことや認識したことの形状を先送りしないという会計の基本的な考え方です。なお、この考え方は簿記や会計を学ぶ上でも最も最も基本となる大切な考え方です。
適正な期間損益計算とは、1年間に実現した売上に対応する費用の発生を正しくあらわすために調整することです。会計ルールのひとつ、損益計算書原則では”費用収益対応の原則”が求められます。ここで”費用収益対応の原則”に触れておきます。
今年度10個(単価1円)仕入れたうち、6個(単価10円)売上げたとします。この場合に、適正な期間損益という概念をあてはめれば次のようなイメージになります。
損益計算書上の売上原価は6円。売上60円に対しての費用は、仕入れ全額10円ではなく6円です。
→今年度、たとえ10個仕入れていたとしても、費用としてのせるべきなのは実際に実現した収益に対応する分のみ。10円を支払って仕入れたけれど、損益計算書にのせるのはあくまでも売れた個数分の6円となります。
これが費用収益対応の原則に沿った考え方です。適正な損益計算という考え方は、簿記学習ではとても重要な土台になるので知っておきましょう。
貸借対照表や損益計算書などの財務諸表は、債権者や金融機関をはじめ、多くの立場からみてルールに沿って作成された正しいものでなければなりません。財務諸表に信頼性があるからこそ、企業に投資や融資の適正な判断がなされ、それが企業活動の維持・発展を支えています。そして、これは巡りめぐって社会全体の経済活動に大きく貢献しています。
3.貸倒引当金の会計処理が求められる場面とは? 簿記でのポイントは、期中と期末の仕訳処理
簿記3級で貸倒引当金がテーマになるのは期中の貸倒処理と、期末の見積もりです。
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今年度の売上に対する売掛金が貸し倒れた場合は、当期の損失にします。◆
(借)貸倒損失 3←当期の費用
(貸)売掛金 3←資産の減少
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昨年度の売上に対する売掛金が貸し倒れた場合は当期の損失にするべきではありません。貸倒引当金を取り崩し、当期の損益計算に影響がないように会計処理をします。このために、毎年、貸倒引当金を設定しているのです。
(借)貸倒引当金 1←昨年度設定済
(貸)売掛金 1←資産の減少
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決算整理での貸倒引当金の見積もり
→今年度の見積もり額から、現時点での貸倒引当金残高を引いた差額を繰入額とします(差額補充法)。
(借)貸倒引当金繰入 5
(貸)貸倒引当金 5
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日商簿記で出題されやすい貸倒引当金の仕訳と解き方
単発の仕訳問題
・5月31日、前期の売掛金30円が回収不能となった。貸倒引当金残高は50円ある。
(借)貸倒引当金 30
(貸)売掛金 30
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・6月15日、当期の売掛金20円が回収不能となった。現在の引当金残高は20円ある。
(借)貸倒損失 20
(貸)売掛金 20
※引当金残高はあるけれど、それは前期の売掛金に対して設定したものなので、当期の売掛金に対しては使いません。
ストレートに、当期の損失とします。
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・6月30日、前期の売掛金25円が回収不能となった。現在の引当金残高は20円ある。
(借)貸倒引当金 20
貸倒損失 5
(貸)売掛金 25
※貸倒引当金が足りなくなってしまったので、仕方なく当期の損失とします。
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よく出る問題文の例です。上記のどれかが抜き取られて出題されます。得点につながるもっとも大事なポイントは、貸倒れた売掛金が”当期発生”なのか”前期発生”なのかをしっかりと読み取ることです。
貸倒引当金は期末の売掛金に対して設定するものです。当期発生の売掛金に対しては用意されていません。したがって、貸倒引当金をあてられるのは、前期発生の売掛金のみというのが基本的な考え方です。
決算問題における決算整理仕訳
・当期の売掛金3,000円のうち、2%を次期に貸倒れると見積もった。現時点での貸倒引当金残高は0円。
(借)貸倒引当金繰入60
(貸)貸倒引当金 60
貸倒引当金の間違えやすいミスを理解して簿記試験の本番に備えよう
これまでの内容から、ミスしやすい原因をまとめてみましょう。
〈NG〉貸倒れたのが当期に発生した売掛金なのに、前期に設定した引当金をいじってしまう。
貸倒引当金は期末時点の売掛金に設定するということを押さえれば、確実に正解できるようになります。理解したうえで、ケアレスミスをなくすには「当期」「前期」というワードに注意して解きましょう。
〈NG〉決算問題で、決算整理前残高試算表の数値に対して計算してしまう。
未処理事項には、売掛金未回収や売掛金回収の記帳漏れなどが書かれています。必ず、未処理事項を先に確認しましょう。未処理事項を反映した売掛金残高(つまり貸借対照表にのる売掛金)に対して見積り額を計算してください。
貸倒引当金の仕訳と記入/表示方法とまとめを覚えよう
では、仕訳/表示について確認しておきましょう。貸倒引当金は、評価勘定という位置づけです。負債ではないので、資産の部の売掛金などから控除して表示されます。
『貸借対照表』
(資産の部)
売掛金 3,000
貸倒引当金 ▲60 2,940
帳簿上の売掛金の価額は減らさないけれど、回収できると見込まれる額(2,940円)をわかりやすく表示する効果があります。
貸倒引当金に関する問題は、単発の仕訳問題と決算問題どちらも頻出論点となっています。ゆえに、本質を理解したうえで何度も練習を重ね、得点率アップを目指しましょう。