「給与の経理処理が複雑でよくわからない」、「仕訳はチェックしたけれどもなかなか計算が合わない」こんな悩みを持ったことはないでしょうか。
このような悩みは、ポイントさえわかれば、避けることもできますし解消することも可能です。
今回は、経理担当が直面する給与仕訳に関して、知らないと損するポイントを紹介します。
給与の預り金の仕訳で間違えないポイントは?
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給与の預り金の仕訳
給与の預り金の仕訳で困った!原因がつかめない!という悩みは、ポイントを知ればカンタンに解決できる
「あれ…給与の預り金残高が合わないな…」
「残高を合わせるために過去の仕訳をチェックしたいけど、どうにも複雑でどれが原因か分からない…」
経理担当者であれば、このような状況に直面することは多いのではないでしょうか。
給与仕訳はさまざまな要素が含まれているため仕訳が複数行になるケースが多く、一見するととても分かりづらく感じます。
そのため、仕訳のミスに気が付かず、いつの間にか残高がズレているということもしばしば起こり得ます。
その都度キチンと残高を合わせておくことが望ましいのですが、仕訳の中身を正しく理解していないとそう簡単にはいきません。
給与仕訳の中身について理解を深め、科目残高の過不足に頭を悩ませることのないようにしましょう。
給与の仕訳が難しいと感じる理由①:発生主義の原則(預り金が難しい)
そもそもなぜ給与仕訳は難しいと感じるのでしょうか。
それは「発生主義の原則」が大きく関係しています。
発生主義の原則とは、費用の計上を「現金や預金が動いたタイミング」ではなく「取引などの事実が発生したタイミング」で行うという考え方です。
給与仕訳は一見すると、「給与を支払ったタイミングですべての費用を計上すれば良いのでは?」と思ってしまいますが、実際は発生主義の原則により、「給与を支払うタイミング」と「費用を計上するタイミング」は一致しないことが多いのです。
そのため、給与を支給する前に一旦「未払費用」や「預り金」といった負債勘定を使用して仕訳計上をすることになりますが、その計上と取り崩しの際にミスが発生すると、科目残高の過不足に繋がってしまいます。
なお、「現金主義」の考え方も存在しますが、ここでは説明を割愛いたします。
給与の仕訳が難しいと感じる理由②:税金と社会保険料の存在
給与仕訳と切っても切れない関係にあるのが、「税」「社会保険料」といった源泉徴収項目です。給与だけでなく、これら源泉徴収項目もあわせて経理計上しなければならないという点が、給与仕訳が難しいと感じる最大の理由でしょう。
源泉徴収項目には、のちに詳しく解説しますが、大きく分けて「所得税」「住民税」「社会保険料」「雇用保険料」の4種類が存在します。
それぞれ費用計上と納付のタイミングが異なるため紛らわしいですが、項目ごとに細分化して横断的に考えていくことが正しい理解へと繋がります。
給与の仕訳を細分化して考える①:給与と未払費用
ここからは給与仕訳を構成要素ごとに細分化して考えていきます。
なお、実務上さまざまな経理処理が考えられるうちの一例であることを、予めお断りしておきます。
まずは給与仕訳の幹となる「給与」ですが、これは源泉徴収額を控除する前の、諸手当等を含めた給与の総支給額を基準として計上します。実際に現預金として支出される金額とは異なるため注意が必要です。
なお、計上時期については発生主義の原則に則り、給与の対価としての労働が行われた時期に費用計上をすることとなります。
給与の締日支払日が月をまたぐ場合は、「未払費用」などで一時的に計上を行い、給与の支給をしたタイミングで未払費用を取り崩すという処理が必要です。
給与の仕訳を細分化して考える②:社会保険料(預り金の取り崩し)
社会保険料は従業員と会社が折半して負担をします。
従って従業員の給与から従業員負担分の社会保険料を控除することによって一旦預かり、会社負担分の社会保険料とあわせて行政機関に納付をすることとなります。
会社負担分の社会保険料は「法定福利費」として費用計上を行いますが、従業員負担分の社会保険料は会社の費用ではなく、あくまで従業員個人の費用を会社が一時的に預かっているにすぎないため「預り金」として負債計上を行います。
会社負担分の社会保険料を「法定福利費」として計上する時期についてですが、「給与」と同様に発生主義の原則に則り計上することとなります。
社会保険料は、従業員が入社するなどして社会保険に加入した月から発生するため、そのタイミングで一旦「未払費用」などを相手勘定として費用計上します。
翌月末には会社が社会保険料を行政機関に納付するので、そこで「未払費用」と「預り金」が同時に取り崩されることとなります。
「未払費用」「預り金」ともに正しく計上されていればキレイに取り崩されることとなりますが、社会保険料は毎月変動する可能性があるため、正しく把握していないと残高過不足が生じる危険性があります。
差異が生じた場合には、変動した社会保険料が正しく給与から源泉徴収されているか、未払費用に正しく計上しているかを確認しましょう。
なお、従業員の給与から社会保険料を控除するタイミングに決まりはありませんが、社会保険料が発生・変動した翌月の給与から控除することが一般的です。
給与の仕訳を細分化して考える③:雇用保険料と労災保険料
雇用保険料と労災保険料とを合わせて「労働保険料」と呼びますが、それぞれで若干性質が異なります。
雇用保険料は従業員と会社の双方が負担しますが、労災保険料は全額会社負担となります。
従って、雇用保険料のみ給与からの源泉徴収が発生することとなります。
社会保険料と同様に、従業員負担分とあわせて会社が行政機関に納付を行いますが、納付の時期は年一回となり、概算額を前払いする形式をとります。
従って仕訳としては、納付時に一旦「前払費用」「立替金」として資産計上し、毎月の給与から源泉徴収した従業員負担分の雇用保険料を「立替金」と相殺するとともに、会社負担分の雇用保険料・労災保険料を「前払費用」の振替によって費用計上することとなります。
概算納付という性質上、基本的に過不足が生じるため、毎年一回の保険料納付時に過不足額を追納するなどして調整をすることが必要となります。
概算額を前払いで納付するという方法は、他の源泉徴収項目とは大きくことなるため、性質を正しく理解していないと残高過不足や費用の振替漏れなどが発生する危険性があります。
給与の仕訳を細分化して考える④:所得税と住民税
所得税及び住民税については、会社負担分がありません。
従って会社が従業員の給与から納税額分を一時的に預かり、そのまま行政機関に納付するという流れとなります。
納付の時期については、基本的には給与から控除した月の翌月10日までに行政機関に納付することとなります。
給与支給時に控除した金額を「預り金」として負債計上し、翌月10日に行政機関に納付した際に全額取り崩されるという単純な流れのため、基本的には残高過不足が生じにくい項目となります。
まとめ
一見すると複雑な給与仕訳ですが、中身を細分化することで理解がしやすくなります。
冒頭のように残高のズレが生じた場合には、給与仕訳全体をぼんやりとチェックするのではなく、構成要素ごとに細分化して差異の原因を探っていくことが早期解決への近道となるでしょう。
給与仕訳はどのような会社でも発生する重要な知識となります。仕訳の中身を正しく理解し、ミスのない処理を目指しましょう。