簿記3級の学習が順調に進んでいくと、いよいよ決算問題に挑むことになります。これまで仕訳をパターンで覚えてしまった人にとっては、最もヘビーな論点といえるでしょう。この記事では、貸借対照表と損益計算書の本質に触れながら、その面白さを知っていただくとともに決算問題でクレバーに点をとるためのポイントを紹介します。
「簿記3級|貸借対照表・損益計算書作成問題」を解く力とは?簿記は一日にして成らず
- テーマ
- 簿記は一日にして成らず
- 監修
- 簿記マスター
簿記3級の集大成が決算問題
簿記3級学習者にとって、大きなテーマとなる決算問題。精算表・決算整理後残高試算表・貸借対照表・損益計算書のいずれかが出題されます。ここでは、貸借対照表・損益計算書作成問題を中心に解説します。
貸借対照表とは、期末時点での財政状態をあらわすもので、すべての資産・負債・純資産を表示したものです。 ”すべての” というのは、資産と負債・純資産を相殺してはいけないという意味が含まれます。
損益計算書とは、会計期間の経営成績をあらわすもので、会計期間のすべての収益と費用を対応表示したものです。売上に対する費用は、仕入額ではなく決算整理で算定し直した”売上原価”であることがわかりやすい例です。
貸借対照表・損益計算書などの作り方には決まりがあります。簿記のシステムは、会計基準に則っています。
会計基準は、法人税法・会社法・金融商品取引法などの法律をもとに会計の専門機関である企業会計基準委員会により制定されています。(もともとは企業会計原則が企業会計審議会により制定されていました。)
貸借対照表と損益計算書
簿記に基づいて作成された貸借対照表や損益計算書などの財務諸表は、融資や投資判断材料としても、企業情報を分析するためにもっとも有用です。 財務諸表の作成・公開は、企業が社会に対して行わなければならない義務です。どのような立場の人が財務諸表を必要とするのか、主な利害関係者の視点からまとめます。
- 株主:配当金を得られるか、投資をするかしないかの判断材料
- 金融機関:融資をするかしないかの判断材料
- 取引先:売掛金回収可否の判断材料
- 従業員:ボーナスの予想など生計維持のための判断材料
上記は一部の例ですが、新しい技術開発を行なっている企業や、ニーズにあった商品を産み出しそうな企業などは名が知られていなくても多くの投資家が関心を持ちます。
その際「資本金つまり企業の規模がどの位あるのか」「研究開発に資金を投じているために赤字だが、将来回収可能かどうか」などの判断は、共通のルールで作られた財務諸表だからこそ比較可能性があり、信頼できる判断材料となるわけです。
勘定科目の名称から貸借対照表・損益計算書の作り方に至るまで、すべてが共通のルールにより記載されなければなりません。投資や融資の判断材料となる数字はすべての会社に共通でなければ、正確な判断がなされず、経済活動に甚大な影響を及ぼします。
社会とは経済活動そのものですので、どのような立場の人にとっても、財務諸表は正しいものでなければなりません。
決算問題に強くなるには?
決算問題はボリュームがある上に、応用の知識も問われます。資産・負債・純資産・費用・収益に属する各勘定科目の増減がどのような意味を持つのかを考えて解くことが簿記力をあげていきます。
以下”現金増加” の2つの仕訳ですが、現金増加の中身を意識してください。
①(借)現金 100
(貸)売上 100
貸借対照表項目の現金増加と同時に損益計算書項目の収益である売上が膨らみます。これは、当期利益を増やす原因となるポジティブな現金です。
②(借)現金 100
固定資産売却損 10
(貸)土地 110
貸借対照表項目の現金増加と資産である土地の減少が同時に起こります。事情によるのでネガティブとは言い切れませんが、①の収益とは異なる現金の増加です。
このように、仕訳上は同じように借方現金であっても、その現金は企業の財政状態にポジティブなものか、ネガティブなものかを意識することで、簿記特有の面白さを実感していくことになります。
ちなみに、負債=ネガティブというわけではありません。その中身が、設備投資のためか、単に資金繰りをしのぐためかを財務諸表から読み取ることができるのです。基準に沿って財務諸表を作成すれば、誰もが財政状態の中身を知ることができるのです。
クレバーに決算問題を解くコツ
貸借対照表・損益計算書作成問題では、資料として『決算整理前残高試算表』『決算整理事項』が与えられます。
解き方の流れ
- 決算整理事項、未処理事項の仕訳をします
- ①の仕訳に従い決算整理前残高試算表の数値を書き換えます
- 決算整理後残高試算表が完成するので貸借一致を確認します
- 解答用紙の貸借対照表と損益計算書に記入します
- 貸借対照表の貸借差額である繰越利益剰余金と、損益計算書の貸借差額である当期純利益が一致するのを確認します
決算整理前残高試算表の前提
- 「繰越商品」:期末に仕訳が行われるので前期末残高が決算整理前残高試算表に載っています
- 「未収収益」「前受収益」「前払費用」「未払費用」:経過勘定は期首再振替仕訳が行われ残高は0になるので、決算整理前残高試算表には載っていないはずです(ただし、期首再振替が未処理であれば載っています)
- 「仕入」:仕入れたタイミングで記帳したものの累積なので、まだ売却していない分の仕入高を繰越商品に変える必要があります
決算整理仕訳のポイント
決算整理仕訳のポイントとなる例をあげます。どれも、より正しい財務諸表を作成するため、適正な期間損益計算のために行われるものだということを意識してください。
- 繰越商品:前期末残高が決算整理前残高試算表に載っているので、売上原価算定の仕訳をして、決算整理後残高試算表に載るべき「当期末残高」にします
- 現金過不足:現金過不足勘定を残せないので「雑損」(費用)または、「雑益」(収益)にします
- 当座借越:期中は取り急ぎの会計処理として、当座預金減少の仕訳をしたので、期末時点での不足分を「当座借越」(負債)にします
- 経過勘定:費用・収益として会計処理をしたうち、当期に属さない分を「未収収益」(資産)「前受収益」(負債)・「前払費用」(資産)「未払費用」(負債)にします
- 消耗品費など:細かな事務用品などは費用で処理したままでOKですが、明らかに換金可能なものは「貯蔵品」(資産)にします
- 減価償却累計額:貸借対照表の資産の部にマイナス表記します(間接法)
- 貸倒引当金:貸借対照表の資産の部にマイナス表記します
など
財務諸表の本質とまとめ
さいごに、貸借対照表と損益計算書の関係を知っておきましょう。損益計算と実際の現金等収支のズレをつなぎ合わせ、1年ごとに会計期間が区切られた連続する損益計算を結んでいるのが貸借対照表です。
”入金と収益は一致しない”
“出金と費用は一致しない”
なので、決算手続きで売上原価の算定や経過勘定の会計処理などが必要なのです。そして、会計期間の損益計算に含めるべきでない費用収益を、資産・負債に変えて貸借対照表に載せられるようにします。
このように簿記3級では、会計期間の収益・費用を対応させるための学習をしてきました。簿記3級学習者にとって、決算整理仕訳はすべて重要です。簿記に必要な感覚は一周では身につきません。毎日コツコツと復習する必要があります。