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減損会計の基礎をわかりやすく解説

テーマ
減損会計の基礎
執筆
公認会計士


減損会計は、企業が保有する資産の価値が永続的に減少した場合に、その減少分を損失として計上する会計処理です。

本記事では、減損会計の基礎について計算例を交えて解説し、日本基準と国際財務報告基準(IFRS)の違いについても最後に解説いたします。

 

減損会計の概要

減損会計は、企業が保有する資産の価値が減少した場合に、その減少分を財務報告に反映させることを目的としています。

具体的には、資産の簿価(取得原価から減価償却を差し引いた金額)が回収可能価格(資産を売却した場合の市場価格または未来のキャッシュフローの現在価値)を上回った場合に、その差額を減損損失として認識します。

 

▼「減損会計のステップについてわかりやすく解説!」はこちらの記事をご確認ください


日本基準における減損会計

日本基準における減損会計は、「企業会計基準第16号 減損の会計処理」によって規定されています。

以下の手順で減損の認識と計上が行われます。

減損の兆候

減損の兆候は、企業が保有する資産の価値が永続的に低下していることを示すサインです。以下は、減損の兆候の一例です。

  • 経済状況の悪化
  • 市場価格の低下
  • 使用可能性の低下
  • 法的規制や環境規制の変更
  • 技術の陳腐化

回収可能額の算出

回収可能額は、使用価値と処分価値のうち、高い方を選択します。

  • 使用価値: 資産を継続使用することで得られる将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いたもの
  • 処分価値: 資産を売却することで得られる金額(販売可能価格から販売費及び一般管理費等の処分費を差し引いた額)

減損判定の実施

減損の兆候が見られた場合、企業は減損判定を実施します。

この判定では、資産の現時点での価値(回収可能額)と簿価(帳簿上の価値)を比較し、回収可能額が簿価を下回る場合に減損があると判断されます。

この時の現時点での回収可能額は割引前の将来キャッシュフローを利用します。

減損損失の計上

回収可能額が簿価を下回る場合、その差額を減損損失として損益計算書に計上します。

日本基準の場合、臨時かつ多額の損失は特別損失に計上すると定められております。

特別損失として計上するか、営業外費用として認識するかは個々のケースに合わせて検討する必要があります。

計算例

仮定

ある企業が、製造設備を10,000万円で購入しました。

この設備は、10年で定額法でされるものとします。年間償却費は1,000万円です。

設備の使用開始から5年が経過しました。

減損の兆候

製造業界の景気が低迷し、同種の設備の市場価格が大幅に下落しています。

このため、減損損失の可能性があります。

回収可能価格の算出

設備の現在の市場価格は4,000万円です。

この設備から見込まれる未来のキャッシュフローの現在価値は4,500万円です。

回収可能価格は、現在の市場価格と未来のキャッシュフローの現在価値のうち、高い方を採用します。したがって、回収可能価格は4,500万円です。

簿価との比較

5年間の償却費:1,000万円 × 5年 = 5,000万円

簿価:10,000万円 – 5,000万円 = 5,000万円

減損の認識

簿価が回収可能価格を上回っています(5,000万円 > 4,500万円)。

従って、減損損失を認識する必要があります。

減損損失の計算

簿価 – 回収可能価格 = 5,000万円 – 4,500万円 = 500万円

結論

企業は、製造設備の減損損失として500万円を認識する必要があります。

▼「減損処理とは? 減損会計の4ステップ」はこちらの記事をご確認ください

資産のグルーピング

減損会計のグルーピングは、資産を同じ性質や用途のグループにまとめ、減損の評価を行うプロセスです。

これにより、資産の価値が公正な評価を受けることができます。

減損テストは、企業が保有する資産の価値が減少しているかどうかを確認するために行われます。

減損があると判断された場合、その資産の価値を適切に調整し、財務報告に反映する必要があります。

グルーピングの方法

減損会計のグルーピングを行う際には、以下の要素に注意して資産を分類します。

資産の性質

同じ性質の資産を一つのグループとして扱います。例えば、土地、建物、機械などの有形固定資産や、特許、商標、ソフトウェアなどの無形固定資産をそれぞれまとめます。

資産の用途

同じ目的で使用される資産をグルーピングします。例えば、製造設備や販売店舗など、異なる部門で使用される資産を分けて扱います。

キャッシュフローの発生源

同じキャッシュフローを生成する資産を一つのグループとして扱います。これにより、資産の将来的な収益性をより正確に把握することができるようになります。

 

日本基準とIFRSでの減損会計の違い

日本基準とIFRS(International Financial Reporting Standards)の減損会計にはいくつかの違いがあります。

以下では、その違いについて詳しく説明します。

減損の判定(インパリメントテスト)の実施タイミング

IFRSでは、減損の判定(インパリメントテスト)は、一定の期間ごとに実施する必要があります。

一方、日本基準では、減損の判定(インパリメントテスト)は、企業がその必要性を判断し、適切なタイミングで実施することが求められています。

資産グループの扱い

IFRSでは、資産グループは、そのグループ全体の現在価値が将来的に回収できる価値よりも低い場合、減損されます。

一方、日本基準では、資産グループの場合でも、個々の資産が減損される場合があります。

予測される将来キャッシュフローの算定方法

IFRSでは、予測される将来キャッシュフローの算定にあたり、適切なディスカウント率を使用することが求められます。

一方、日本基準では、割引率の使用は必須ではなく、予測される将来キャッシュフローの算定方法もIFRSと異なる場合があります。

減損の計上方法

IFRSでは、減損が発生した場合、その損失は直ちに損益計算書に計上されます。

一方、日本基準では、一定の条件を満たした場合にのみ、減損損失を損益計算書に計上することができます。

 

まとめ

減損会計は、企業が所有する資産の価値が将来的に回収できない場合、その資産の価値を減額することを指します。

減損会計には、日本基準とIFRSの2つの会計基準があり、それぞれ異なる取り扱いがされます。

減損会計は、企業にとって重要な課題の一つです。

正確かつ適切に処理することで、企業の信頼性や健全性が高まり、投資家や顧客からの信頼も獲得することができます。

企業は、常に法律や会計基準の変更に対応し、減損会計の取り扱いについても適切に対応することが求められます。

▼「資産除去債務とは?概念から会計処理を解説!」はこちらの記事をご確認ください

 


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