企業価値算定で時価純資産法を用いる際には、BS上の資産価値を時価に修正

財務デューデリジェンスの実務では、対象会社の過去の財務諸表を入手し、当該財務諸表を基礎にまずは簿価ベースの純資産の数値を確認します。
時価純資産を分析する場合は、直近の決算期もしくは直近の月次の財務諸表を基礎に計算することが多いと思われますが、時価に関する情報は、保有する土地、不動産の時価情報をQAにより入手、また含み損が生じている資産を考慮して時価純資産の調整を行います。
資産・負債の各項目について時価評価し、時価純資産を算出し株式評価する手法ですので、売上債権の滞留債権や棚卸資産の滞留在庫を評価減したり、退職給付債務や損害賠償等の簿外処理されている可能性のある負債をオンバランスするなどして潜在的債務・負債を調整し、時価純資産を算定します。
上記のように、時価純資産法は、個別項目ごとに時価を把握できる財務諸表項目を認識し、それらを積み上げて時価純資産を求める手法ですので、客観性のある会計数値をベースにしている点で信頼性もあります。
中小企業のM&Aでは、大企業の案件とは異なり、一般に公正妥当な会計原則に基づいて財務諸表が作成されていても、会計士による監査が入っていないこともあり、財務上のリスクを考慮して時価純資産で実態BSを考慮していく必要があります。
事業承継(M&A)での企業価値算定時の調整項目3選

企業会計基準に縛られない中小企業では、税務上の損金計上要件が厳しいことや資金調達の関係から黒字計上を望む等の理由により、長期滞留債権・長期滞留在庫が簿価のままで計上されていることもあり、純資産の金額が実態を示していない例も多いです
そのため中小企業、零細企業のM&Aでは中小企業特有の財務リスクを意識しながら時価純資産を計算することになります
他にも再生案件など、企業の倒産や清算が論点になるような案件では、実際に企業を清算した場合の価値を計算する必要がありますので、時価純資産法を用いて株式価値を分析する必要があります。
時価純資産法で調整が必要な項目の例①:「非上場株式」
非上場株式など時価が入手困難な項目であっても、当該企業の計算書類等が入手できる場合には入手できた貸借対照表を用いて簿価純資産法や修正簿価純資産法を適用して時価評価することが適切でしょう。
特に、中小企業の場合には債務超過状態もしくは休眠状態の子会社・関連会社株式を保有していることも多く、これらの株式に対して適切な修正を行わないと実態BSが表示できないことになります。
時価純資産法で調整が必要な項目の例②:「退職給付債務」
非上場企業等の場合では、退職給付会計が適用されていないケースが多いです。そのため従業員に対して十分な退職給付引当金が計上されていない可能性が多分にあります。
特に、企業規模に比して従業員を多く抱える企業では、退職金規定等の精査も含めてデットライクアイテムである退職給付債務の測定は非常に重要な論点になります。
時価純資産法で調整が必要な項目の例③:「偶発債務・潜在的債務」
法的な係争事件や、現在BSには計上されていないものの、今後一定の事象が発生することによりキャッシュアウトが発生するような潜在的債務は、時価純資産法の採用において考慮する必要があります。
時価純資産法で調整が必要な項目の例④:「土地・不動産等」
土地や不動産などの有形固定資産に計上されている項目に関しては、土地は取得時の簿価で計上されています。ゆえに時価を反映する場合は不動産も含めて不動産鑑定士による評価がある場合は、時価を把握し資産の含み益がある場合は時価純資産に反映する必要があります。
今回は、中小企業のM&Aにおいて、特に利用されることも多い、時価純資産法について、詳しく解説しました。
事業承継やM&Aの実施を検討している方はぜひ参考にしてみてください。