M&A事業承継

事業承継やM&Aで失敗しない! 買収価格と設備投資Capex

テーマ
M&A、事業承継
執筆
公認会計士、投資銀行勤務

事業承継やM&Aを行う際の買収価格の算定を行う際に、専門家が注目するのが設備投資Capexです。
過去の設備投資や将来の設備投資計画は、買収価格に影響を及ぼします。
今回は、M&A時の財務デューデリジェンスにおいて必ず見るべき論点について解説していきます。重要な論点として正常収益力・ネットデット・設備投資(CapEx)・運転資本・時価純資産がありますが、今回は設備投資に関する記事になります

M&Aにおける設備投資

事業承継やM&Aをするなら注目すべき設備投資。そもそも設備投資Capexとは?

設備投資とは、固定資産に対し行う投資のことをいい、キャッシュアウト項目になります。財務諸表においては、キャッシュフロー計算書の投資活動にかかるキャッシュフローという項目に記載されます。

 

固定資産には、有形固定資産(長期にわたって利用する資産のうち、製造装置などの生産を行うための機械、事業所・店舗などの建物、搬送用の車輌、工具備品など)と、無形固定資産(長期にわたって利用する資産のうち、ソフトウェアや電話加入権、特許・商標権など)とに分かれます

 

メーカーなどの製造業では有形固定資産に対する設備投資が重要であり、その金額も多くなります。一方で最近ではITなどのインフラも重要であり、ソフトウェアに対する投資も設備投資として重要性が増しているため、それぞれに区分して金額を推計、財務デューデリジェンスにおいても分析することが求められます。

 

設備投資Capexは、 財務デューデリジェンスで専門家が注目してくる

財務デューデリジェンス=FDD,財務DD)では、設備投資に関する状況・分析は重要性が高ければエグゼクティブサマリーに記載される重要項目の一つです。固定資産のセッションと併せて記載されることが多いですが、EBITDAから設備投資を控除した数値の推移や、売上高に対する設備投資の比率、減価償却と設備投資の水準も同様に検討されることが多いです。

 

設備投資Capexは買収価格算定に影響する

特に設備投資の水準はキャッシュフローに影響する項目である事から、事業会社のみならず、プライベートエクイティファンドが重視することになります。

事業会社にとっても、M&AにおいてDCF法でバリュエーションを行う際は、アンレバードフリーキャッシュフローが基礎になります。

アンレバードフリーキャッシュフローの計算では税引き後営業利益に償却費を加算、運転資本の増減額と設備投資を減額して、その数値を計算します。計算要素を構成する設備投資の金額は、将来の計画期間のみならず、過去の設備投資金額の水準と併せて整合性がチェックされることが多くなります。

【設備投資が事業承継やM&Aで重要視される背景】
事業承継時の企業価値算定手法の一つ、DCF法

DCF法は将来その会社が生み出すキャッシュの合計値を足し合わせる計算方法

将来の設備投資は、その企業が将来生み出すキャッシュのマイナス要因

”将来の設備投資は、買収価格算定時の重要な要素”

 

 

企業価値算定(バリュエーション)時には、将来の設備投資Capexを適切に予測し反映すべき

DCF法においては、将来の計画期間における設備投資の水準、および継続価値の計算に使用する設備投資の水準を定める必要があります。

特に設備投資の水準は有形固定資産もしくは無形固定資産のスケジュールに合わせて財務モデル上で検討することが重要です。

固定資産の期末残高=期首残高+設備投資―減価償却費で計算されますので、将来の固定資産の残高を推定するためにも、設備投資水準を見積もるための過去の分析が肝になります。

実務上は財務デューデリジェンスにおいて設備投資と売上高の比率、もしくは設備投資と減価償却費の比率を計算し、損益計算書項目と設備投資の比率を把握します。

これらの数値が過去5年において分析できれば、事業計画期間においても、設備投資金額は比較的高い精度で見積もることができます。実際には財務モデル上で「設備投資金額は、過去5年間の設備投資対売上高比率の平均値が継続すると仮定する」といったように、財務デューデリジェンスにおいて分析された結果を財務モデルに適切に反映するようになっています。

企業価値算定時の設備投資

意図的に設備投資Capexがおさえられいないか要チェック


M&Aで注視される過去・将来の設備投資Capex。デューデリジェンスの重要点

設備投資は、一般的には新規の投資に関連する拡張投資・新規投資と、既存の固定資産に対するメンテナンスに関する更新投資に分かれています。

更新投資と、拡張投資を区分して分析することも多く、過去3-5年においてそれぞれの推移を検討します

また減価償却費と設備投資の水準を比較して分析することや、EBITDAからCapex控除した数値もキャッシュフローに類似した数値ですので合わせて分析・記載されることもあります。

 

他にも、分析対象となる企業において、過去において設備投資が抑制されてきたかどうか、そうであれば将来的に設備投資によりキャッシュアウトが生じるリスクはないか、陳腐化・老朽化している設備があるのに設備投資は抑えられていないか、等定性的な内容も重要な検討事項になり、特に買収側の企業にとっては非常に重要です。

 

そのため、財務デューデリジェンスを行う主体にとっては、過去の設備投資を固定資産台帳や企業の管理会計データから読み解くだけでなく、経理担当者に対するQAシートにより明確にしたい事項を深堀していくことが重要になります。

特にプライベートエクイティファンドは設備投資によるキャッシュアウトがどの程度になるか、ということを重視しますのでクライアントのリクエストに応じて分析の深度を変えていくことがポイントになります。

 

M&Aの専門家が着目するキャッシュアウトの分析ポイント

M&Aにおいて買手がプライベートエクイティファンドの場合には、設備投資によるキャッシュアウトを分析することは重要です。

特に過年度から推移と、更新投資と拡張投資の区分、および過年度の設備投資を反映したアンレバードフリーキャッシュフローとEBITDAの比率を比較するフリーキャッシュフローコンバージョン分析も行われることが多いです。

また、分析の範囲も有形固定資産全体というよりは、固定資産のタイプ(機械、事業所・店舗などの建物、搬送用の車輌、工具備品)別に設備投資額を推計するなど、よりメッシュの細かい分析を依頼するケースもあり、財務デューデリジェンスを行う会計事務所の腕の見せ所になります。

 

今回は、事業承継やM&Aにおいて、なぜ設備投資が重要視されるのか、買収価格算定の視点を交えて説明しました。

事業承継やM&Aを行う際には是非思い出してみてください。

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