M&A事業承継

M&Aを成功に導くための鍵─ケイパビリティとコアコンピタンスの活用法

テーマ
M&Aを成功に
執筆
公認会計士


M&Aの実行にあたっては、その会社の企業価値を財務的な観点から算出します。自社にとって必要な事業を営んでおり、かつ、企業価値が大きい会社であれば、基本的にM&Aの実行を検討してよいといえるでしょう。

しかし、会社の単純な価値にばかり目を向けてM&Aを行うと、短期的には成功できたとしても、長期では失敗する可能性があります。

そこで今回は、M&Aを実行すべき会社には何が存在しているのかを解説していきます。最後まで読むことで、現在検討しているM&A案件が本当に実行に値するものか判断できるようになります。ぜひ、最後まで読んでいってください。

陥りがちなM&Aの罠

 

企業経営における様々なシーンで活用されているM&A。しかし、「会社を成長させるにはM&Aを実行するべきだ」という論調がひとり歩きした結果、M&Aが「手段」ではなく「目的」と化している例が見受けられます。

 

「M&Aを行う」ことそのものが目的となってしまうと、数あるM&A案件を検討する基準が、

 

  • 現在の資金力で実行可能か?
  • 交渉は行いやすいか?

 

など、M&Aの実行そのものに焦点を置いたものとなってしまいます。これでは、M&Aを実施することはできても、「1+1=2」となるのが関の山です。それでは成功したM&Aとは言えません。M&Aにおける成功とは、「1+1」が3にも10にもなることです。

どのような会社をM&Aの対象とすべきか

「M&Aは目的ではなく手段」という点は理解いただけたと思います。では、M&A案件を検討する際の正しい基準とはいったいなんでしょうか。前提としていえることは、自社の事業とシナジーを持つ会社であることです。

自社事業とは無関係の事業を対象として行う非関連型のM&Aは、自社ノウハウを活用できないため、先ほど挙げた「1+1=2」の結果になってしまうことも多く、組織の統合に際しても問題が生じやすいです。

M&A実行後に自社事業・対象会社の事業双方の付加価値を向上させる、あるいはコスト低減を図るためには、対象会社の事業と自社事業にシナジーが存在するかどうかを見極めることが重要です。

持続的競争優位とそれを生み出すもの

事業間にシナジーが存在することを見極めた上で重要となるのが、「持続的競争優位を持つ強みの有無」です。持続的競争優位を持つ強みとは、予測不能な外部環境の変化が起きない限りは競争優位性を保てる強みのことを指します。

持続的競争優位を持つ会社は、例外なく「コアコンピタンス」と「ケイパビリティ」という能力を持っています。以下からは、この2単語について解説していきます。




▼「マーケティング初心者でも理解できるマーケティング分析手法をわかりやすく解説!」はこちらの記事をご確認ください

コアコンピタンスとケイパビリティの役割

コアコンピタンスとは

コアコンピタンスとは、経営思想家であるプラハラードとハメルにより提唱された概念です。日本語で「中核能力」とも訳され、顧客に対し、他社が模倣できない独自の価値を提供するための技術やノウハウのことを指します。それらは、往々にして形成までに時間を要するものです。

そして、このコアコンピタンスを生み出して活用するという経営手法を「コンピタンス経営」といいます。平たく言えば、「自社固有の強みを生かして経営を行う」ということです。ごく単純なことに思えるかもしれませんが、このコアコンピタンス経営は「言うは易く行うは難し」の典型例です。

実際には、自社固有の強みを探求せずに、業界大手の製品を形だけ模倣して販売したり、単なる安売りを行ったりして利益を挙げている企業も数多く存在します。そして、これらの方法でも短期的には成功できてしまうのです。

しかし、10年やそれ以上の長期スパンで見ると、コアコンピタンスを持たない会社は淘汰されていきます。企業が競争を生き抜き経営を持続させるためには、コアコンピタンスは必須といえるでしょう。

さて、M&A実行を検討する企業にコアコンピタンスが存在するかどうかを把握するには、VRIO分析を行うのが効果的です。VRIO分析とは、

  • 経済性
  • 希少性
  • 模倣困難性
  • 組織

の4つの問いを順番に行い、企業が持つ強みに優先順位をつけるフレームワークです。詳しくは以下の記事をご覧ください。

「VRIO分析とは? 自社の強みを分析するフレームワークを詳しく解説」(記事を掲載次第リンク追加)

ケイパビリティとは

ケイパビリティとは、直訳で「能力」や「才能」を意味し、経営用語では「組織が得意とする能力」を指します。一見すると、コアコンピタンスと同じ概念に思えるかもしれません。

しかし、ケイパビリティはコアコンピタンスの典型例である「技術」や「資産」ではなく、「組織」に焦点を当てた概念となります。コンピタンスをごく単純に「モノ」とすると、ケイパビリティはそれを扱う「ヒト」の優れた能力ということです。

先ほどご紹介したVRIO分析に「O=組織」の問いが存在するように、いくら優れた技術やノウハウが存在していても、それを活用する仕組みがなければ宝の持ち腐れです。反対に、ケイパビリティによって経営資源を効率的に扱うことができれば、まだコアコンピタンスと呼べないような強み(単なる「コンピタンス」)も、その企業固有の強みとして成長させることができるでしょう。

M&Aにおいても考え方は同じです。M&Aで特許やブランドなどのコアコンピタンスを獲得しても、それらを活用する術を熟知した従業員を放出してしまうと、自社内でコアコンピタンスを十分に扱うことができず、価値が低減してしまいます。

▼「VRIO分析とは?自社の強みを分析するフレームワークを詳しく解説」はこちらの記事をご確認ください

まとめ

今回は、M&Aを実行する会社を見抜くための要素について解説しました。M&A案件を検討し直す前に、まずは自社にコアコンピタンスやケイパビリティが存在するか考えてみるのもよいでしょう。「自社で生み出せないもの」を獲得するのがM&Aです。自社に何があるのかも把握した上で、慎重にM&Aを吟味していきましょう。

▼「PEST分析とは?目的・必要性や分析のやり方について具体例を交えてわかりやすく解説!」はこちらの記事をご確認ください



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