経理/簿記試験

キャッシュコンバージョンサイクルとは?効率的な資金運用のポイント解説

テーマ
CCCとは
執筆
公認会計士



皆さん「キャッシュコンバージョンサイクル」という言葉をご存じでしょうか。普段お仕事で経理を担当されている方でもあまり聞きなじみがない言葉かもしれませんが、考え方さえ理解できれば資金運用の効率化につなげることができます。今回は一緒にキャッシュコンバージョンサイクルの考え方・計算式・改善方法を勉強していきましょう。

キャッシュコンバージョンサイクルとは

キャッシュコンバージョンサイクルとは、企業が仕入債務を支払ってから、売上債権の回収までにかかる日数を表し、効率的に資金を運用できているかを確認する指標になります。キャッシュコンバージョンサイクルが短いほど、手元の資金に余裕があることを意味するため、安全性が高いといえるでしょう。




▼「キャッシュ・フロー計算書の基礎」はこちらの記事をご確認ください

キャッシュコンバージョンサイクルの計算式

キャッシュコンバージョンサイクルは次のように計算することができます。

キャッシュコンバージョンサイクル=棚卸資産回転日数+売上債権回転期間-仕入債務回転日数

まずは図を見ながら言葉の意味を理解しましょう。

棚卸資産回転期間

材料を仕入れてから販売するまでにかかる期間のことで、次の式で計算できます。

棚卸資産回転期間=棚卸資産÷(売上原価÷365日)

計算式がやや複雑ですが、棚卸資産を1日の売上の何日分持っているか、つまり棚卸資産をどのくらいの期間で全部売り切ることができるかを表します。

1点補足ですが、棚卸資産とは販売目的で保有する資産のことで、貸借対照表の流動資産に含まれます。流動資産には他にも現金や売上債権がありますが、棚卸資産以外は計算式に含めないように注意しましょう。

売上債権回転期間

売上債権を回収し、現金化するまでにかかる期間のことで、次の式で計算できます。

売上債権回転期間=売上債権÷(売上高÷365日)

こちらも棚卸資産回転期間と同じく、売上債権を1日の売上の何日分持っているか、つまり売上債権を

どのくらいの期間で回収できるかを表します。また、あくまで売上債権の回転期間なので、現金や棚卸資産など、その他の流動資産を含めないように注意しましょう。

仕入債務回転期間

商品を仕入れてから、買掛金や支払手形など仕入債務を支払うまでの期間のことで、次の式で計算できます。

仕入債務回転期間=仕入債務÷(仕入高÷365日)

こちらも仕入債務を1日の売上原価の何日分持っているかを表します。あくまで仕入債務の回転期間なので、短期借入金など、その他の流動負債を含めないように注意しましょう。

 

それでは実際の数字を使ってキャッシュコンバージョンサイクルを計算してみましょう。

22年度末の業績が下記の会社を想定してみてください。

売上高:10,265千円

仕入高:5,690千円

売上原価:7,706千円

棚卸資産:2,042千円

売上債権:2,978千円

仕入債務:1,755千円

 

まずは棚卸資産回転期間から確認しましょう。

先ほどの計算式にあてはめて計算すると、

棚卸資産回転期間=2,042千円÷(7,706千円÷365日)=97日なので、

この会社は材料を仕入れてから販売するまで97日かかることになります。

 

次に売上債権回転期間を確認しましょう。

先ほどの計算式にあてはめて計算すると、

売上債権回転期間=2,978千円÷(10,265千円÷365日)=106日なので、

この会社は商品を販売して売掛金を計上してから現金化するまでに106日かかることになります。

 

最後に仕入債権回転期間を確認しましょう。

先ほどの計算式にあてはめて計算すると、

仕入債権回転期間=1,755千円÷(5,690千円÷365日)=113日なので、

この会社は材料を仕入れてから債務を支払うまでに113日の猶予があることになります。

 

以上をふまえてキャッシュコンバージョンサイクルは次のように計算できます。

棚卸資産回転期間97日+売上債権回転期間106日-仕入債務回転期間113日=90日

つまり材料仕入れのためにお金を払ってから、販売代金が入金されるまで90日かかることになります。

 

キャッシュコンバージョンサイクルは一般的に3か月以内が望ましいと言われていますが、ビジネスによって長さが異なるので、まずは自分の会社の業界平均と比較してみるのがよいでしょう。

例えば機械業界は材料を仕入れてから完成品にするまで数か月かかるケースもあるため、キャッシュコンバージョンサイクルは平均よりも長くなる傾向にあります。

また、米国のアップル社はキャッシュコンバージョンサイクルがマイナスであることで有名です。

キャッシュコンバージョンサイクルがマイナスということは、材料の代金を支払う前に商品の販売代金が入金されることを意味します。

実はアップル社の棚卸資産回転期間は約10日程度に対して、仕入債務回転期間は約120日という驚異的な数字になっています。

棚卸回転期間が短い理由の一つは、アップルがファブレス経営を行っているためです。

ファブレス経営とは製造のための自社工場や自社設備を持たない経営方法です。アップルは製品企画や設計、販売のみを行い製造は外注に任せているため、不要な在庫を抱えずに経営を行うことができるのです。

国内でもファブレス経営を行っている会社がありますが、キーエンスや任天堂など、どの会社も利益率が高い会社ばかりですね。

また、仕入債務回転期間が異常に長いのはアップルのブランド力による影響が大きいでしょう。

圧倒的なブランド力を背景に、仕入先(電子部品メーカー)に対する支払期間の交渉を有利に進めることができるのです。

キャッシュコンバージョンサイクルの改善方法

それではキャッシュコンバージョンサイクルを下げるにはどうすればよいでしょうか。

例えば次の方法が考えられます。

①棚卸資産回転期間の短縮

・定期的に棚卸を行うことで不要在庫を処分し、在庫水準を適正化する

➁売上債権回転期間の短縮

・販売先と交渉し、売掛金の入金サイトを短縮する

・定期的に債権管理を行うことで滞留債権の有無を確認する

③仕入債権回転期間の延長

・仕入先と交渉し、買掛金の支払いサイトを延長する

 

販売先との入金サイトの交渉、および仕入先との支払いサイトの交渉は取引先との関係性が悪化するリスクもあります。そのため、まずは定期に棚卸や債権をチェックするところから始めるのがよいでしょう。

▼「【要約】未来IT図解これからのキャッシュレス決済ビジネス_コロナで取り扱い店舗が増加したキャッシュレス決済。その業界をわかりやすく解説!」はこちらの記事をご確認ください

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。キャッシュコンバージョンサイクルは資金繰りを確認する指標で、実際に経営評価のKPIとして採用している会社も多く存在します。アップルのようにキャッシュコンバージョンサイクルをマイナスにするのは現実的に難しいと思いますが、少しでも短縮できれば資金に余裕をもって会社経営を行うことができるので、まずは会社のキャッシュコンバージョンサイクルを把握するところから始めてみましょう。

▼「簿記合格には大事!キャッシュフロー計算書の見方」はこちらの記事をご確認ください



Biz人 編集部 経理応援隊/簿記応援隊

経理実務や簿記の試験対策に役立つ知識を提供します。

人気Articles

  1. 前受金・前払金・前受収益・前払費用を覚えよう!

  2. 補助簿とは?各帳簿について解説!~補助記入帳編~

  3. 営業から経理になってしまったとき

  4. 連結会計を難しくさせている大きな要因「非支配株主持分」をわかりやすく解説!

  5. 「雑費」の使い方に注意!会社のルールに従って正しく仕訳しよう

  6. 簿記の基本。知らないいと恥ずかしい減価償却費の会計処理とは?

  7. マーケティングの中長期的戦略と短期決戦を詳しく解説

  8. 経理担当者なら取得したい!日商簿記3級でよくでる仕訳|諸掛り

  9. 仮払金と立替金の違いとは?内容や仕訳方法についてくわしく解説

  10. 簿記の試験時間に焦らない!電卓の基本機能