経理の実務ではもちろん、簿記でも3級から出てくる「貸倒引当金」。
しかし貸倒引当金をどうして設定しないといけないのか、どのように計上するのが正解なのか、しっかり把握していない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、貸倒引当金について分かりやすく説明していきます。
経理の実務ではもちろん、簿記でも3級から出てくる「貸倒引当金」。
しかし貸倒引当金をどうして設定しないといけないのか、どのように計上するのが正解なのか、しっかり把握していない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、貸倒引当金について分かりやすく説明していきます。
【目次】
「貸倒引当金」とは、将来貸倒が起こった時に備えて設定する貸借対照表の表示科目です。
貸倒とは、取引先の倒産などの理由によって売掛金や未収金などの「債権」が回収できなくなること。
「将来ウチは貸倒で債権が回収できなくなるかもしれません」という可能性を示すための勘定科目なのです。
貸借対照表では、資産区分にマイナスの金額で表示されます。
貸倒引当金の設定の際、実際に金銭の移動が伴うことはありません。
貸倒引当金を設定できるのは、
です。
また、貸倒引当金を使用することが出来る債権は以下の通り。
売上に関わる債権と認識すれば問題はないでしょう。
「実際のお金の動きに関係のない勘定科目なら、どうして設定しないといけないの?」
と思われる方も多いでしょう。
貸倒引当金を設定する大きな理由としては、
この2点が挙げられます。
貸倒が発生した時、下記のような仕訳を計上して、帳簿上の残高から回収できなくなった債権分を除く必要があります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
貸倒損失 | 10,000円 | 売掛金など | 10,000円 |
借方の「貸倒損失」は費用です。
そのため、貸倒が発生すると予定外の費用計上により利益が減少してしまうのです。
それを避けるため、貸倒が発生した時に備えて、あらかじめ貸倒引当金を設定しておきます。
そうすると、貸倒が発生した時の仕訳は
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
貸倒引当金 | 10,000円 | 売掛金など | 10,000円 |
このようになります。
貸倒引当金は資産科目ですので、利益に影響を与えることがありません。
また貸倒となった債権の金額が貸倒引当金の残高を超えた場合は、
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
貸倒引当金 | 10,000円 | 売掛金など | 20,000円 |
貸倒損失 | 10,000円 |
このように仕訳をすることになります。
この場合は多少利益に影響を及ぼすことになりますが、それでも貸倒引当金がない状態より影響は小さくなります。
また貸倒引当金を設定することによって、節税効果を見込むことができることも。
例えば、次の例のような場合です。
貸倒引当金を設定する時の仕訳は
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
貸倒引当金繰入 | 10,000円 | 貸倒引当金 | 10,000円 |
となります。
「貸倒引当金繰入」は費用なので、計上した金額分、利益は減少することになります。
利益が小さくなればなるほど税金は少なくなりますので、節税の上で有利になると言えます。
貸倒引当金は、事業年度が終わった後の決算仕訳で計上します。また貸倒引当金の残高は事業年度ごとに再計算し、見直します。
では、貸倒引当金をどのような流れで処理していくのか見ていきましょう。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
貸倒引当金繰入 | 10,000円 | 貸倒引当金 | 10,000円 |
【洗替法で仕訳する場合】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
貸倒引当金 | 10,000円 | 貸倒引当金戻入 | 10,000円 |
貸倒引当金繰入 | 15,000円 | 貸倒引当金 | 15,000円 |
【洗替法で仕訳する場合】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
貸倒引当金繰入 | 5,000円 | 貸倒引当金 | 5,000円 |
貸倒引当金繰入は費用、貸倒引当金戻入は収益です。
また洗替法は、一旦残高をすべて取り崩し、その後貸倒引当金を新たに設定する仕訳の方法。差額補充法は、現在の残高と見直し後の残高の差額を繰入(もしくは戻入)する方法のことです。
洗替法、差額補充法については、後ほど詳しく説明します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
貸倒引当金 | 8,000円 | 売掛金など | 8,000円 |
【洗替法で仕訳する場合】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
貸倒引当金 | 7,000円 | 貸倒引当金戻入 | 7,000円 |
貸倒引当金繰入 | 6,000円 | 貸倒引当金 | 6,000円 |
【差額補充法で仕訳する場合】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
貸倒引当金 | 1,000円 | 貸倒引当金戻入 | 1,000円 |
先ほど、貸倒引当金の見直しの時に2種類の仕訳の仕方が出てきましたね。
貸倒引当金を初めて扱う場合、「洗替法」と「差額補充法」、どっちで計上すればいいのか迷われる方も多いのではないでしょうか。
結論から言うと、どっちでも良いです。
どっちを選んでも、貸倒引当金の残高や税金の金額に影響が出ることはありません。
法人税法上、貸倒引当金では洗替法での繰入が原則とされているため、中小法人では洗替法で仕訳をする会社が多いのではないかと思います。
しかし「貸倒引当金の差額繰入れ等の特例」によって差額補充法での繰入も認められており、必ずしも洗替法でないといけないというわけではありません。
(参考URL:国税庁;第11章 引当金)
一方、「融資対策の時に差額補充法の方が有利だから…」と差額補充法を選ぶ企業や事業者も見かけます。
これは洗替法が「差額補充法に比べて営業利益・経常利益が小さくなる」というデメリットがあるためです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
貸倒引当金 | 10,000円 | 貸倒引当金戻入 | 10,000円 |
貸倒引当金繰入 | 15,000円 | 貸倒引当金 | 15,000円 |
貸倒引当金繰入の損益計算書における表示区分は営業利益・経常利益の計算に関わる「販売及び一般管理費(もしくは営業外費用)」です。
一方貸倒引当金繰入の表示区分は営業利益・経常利益を計算した後に関わってくる「特別利益」であるため、差額補充法に比べ、営業利益・経常利益が小さくなってしまうのです。
銀行では営業利益・経常利益を重視する、と言われているため、融資を重視する企業や事業者は差額補充法を選ぶことが多いのです。
ただし平成23年に「金融商品会計に関する実務指針」が改正され、貸倒引当金戻入は特別利益から営業外収益へ変更となりました。
これから貸倒引当金を設定する企業・事業者は、本当に「どっちを選んでもいいよ」ということになりそうですね。
ただし一点だけ注意が。
経理は同じやり方で仕訳していく継続性が重視されます。