社内、社外にかかわらず、一時的にお金を立て替えたときに使用する立替金ですが、似たような勘定科目もあり、迷われる方もいるかもしれません。そのような方のために、ここでは、その用途や似ている勘定科目の仮払金、貸付金について、さらに実際に仕訳を切りながら、説明していきます。簿記の基本ですので、ぜひ、覚えてください。
「立替金」が発生した場合の勘定科目と仕訳方法について 仮払金や貸付金とどう違う?
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- 「立替金」が発生した場合の勘定科目
- 監修
- 経理部長補佐
【目次】
立替金とは
社内、社外問わず、本当は会社の経費ではないけれど何か明確な事情があって、会社が一時的に支払いをするお金のことです。後に、その分のお金は戻ってくるため、勘定科目の立替金としては、プラスマイナス0となるはずです。貸借対照表の「資産」勘定となり、仕訳時には借方(左側)に記帳します。
万が一、戻ってこなかった時は、別の問題が発生してきますが、それは後ほどご説明します。
立替金の種類は、以下のようなものがあります。
従業員の労働保険料や雇用保険
- 従業員への給与の前貸し
- 本来は取引先が負担する手数料(配送料、手数料など)
間違われやすい勘定科目、仮払金と貸付金
立替金と似ている勘定科目に「仮払金」や「貸付金」があります。どちらも、一時的にお金を支払いして、後から戻ってくることが前提のため、資産勘定となります。
では、仮払金と貸付金とを個別に見てみましょう。
仮払金
交通費等の経費など、支払い金額が確定しないときなどに、事前に概算でお金の支払いをすることを「仮払い」といいます。このように概算で支払ったお金の処理をするときに「仮払金」という勘定科目を使用します。
仮払金は一時的に使用する勘定科目ですので、金額が確定したあとは、本来の勘定科目へ振り替えなければなりません。
仮払いの具体例
- 従業員が出張のときの旅費を概算払いで事前に支払ったとき
- 取引先との会合の際の費用を事前にいくらか渡す場合など
このように、従業員が一時的に立て替えるときの負担を減らすために使用するものともいえますね。
立替金との共通点
- 一時的に会社が支払うお金であり、資産勘定であること
立替金との相違点
- 立替金は会社の経費ではありませんが、仮払金は会社の経費になることを前提としているもの
- 立替金には領収書は不要ですが、仮払金は、精算時に必要
貸付金
取引先、関係会社や会社内部などで、お金を貸した場合に発生する勘定科目です。貸付金などを金銭債権といいます。たまに出てくる言葉なので、知っておいたらいいかもしれません。意味はお金を受け取る権利のことです。勘定科目は「資産」勘定となり、仕訳時には借方に記帳します。ます。貸したお金を返してもらう権利が発生しますので、資産です。
立替金との共通点
- 一時的に会社が支払うお金であり、後から回収することができるお金であり、資産勘定
立替金との相違点
- 立替金は、お金を立て替えたときに使い、貸付金は、お金を貸したときに使う勘定科目
- 立替金には、利息は発生しませんが、貸付金には発生する
- 立替金には、契約書は不要ですが、貸付金には必要
立替金の仕訳はどうなるの?
ここでは具体的な例題で、実際に仕訳を切ってみます。
1.従業員が支払うべきものを立て替えた場合
1)従業員が給料の前借りを希望してきたので、50,000円を現金で支払いました
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
立替金 | 50,000 | 現金 | 50,000 |
従業員から必要と依頼された現金の支払いをしました。この場合は従業員の都合での出費で会社の経費ではないため、立替金となります。
立替金は資産勘定なので、増えるときは借方に記帳します。相手勘定は、資産勘定である現金が減るため貸方に記帳します。
2)今月分の従業員の給料(200,000円)を支給するときに、1)で貸した20,000円を差し引いた残額を現金で支給しました
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
給料 | 200,000 | 現金 | 150,000 |
立替金 | 50,000 |
給料は費用勘定なので、借方に記帳します。貸方は、本来ならば現金が200,000円となるところですが、給料から1)で支払っている立替金を回収しており、立替金が減少しますので、貸方に記帳し、1)の立替金を消し込みます。回収した立替金50,000円との差額の150,000円が現金で支払われています。借方と貸方とで勘定科目を相殺させることを消し込むといいます。
2.取引先が支払うべきものを立て替えた場合
1)取引先のあおぞら商事が支払うはずの配送料1,000円を現金で支払いました
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
立替金 | 1,000 | 現金 | 1,000 |
本当は取引先が支払うはずの送料の支払いをしました。この場合も会社の経費ではないため、立替金となります。仕訳の考え方は1.と同じです。
2)あおぞら商事に立て替えた配送料1,000円を現金で支払ってもらいました。
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
現金 | 1,000 | 立替金 | 1,000 |
立替金は、回収され減少したため貸方に記帳します。現金は、入ってきたお金ですので、資産勘定の増加となり借方に記帳します。
3.従業員が直接立て替えた場合
1)Aさんは出張の際の飛行機代50,000円を立て替えた
≪仕訳なし≫
この段階では、会社の経費は全く動いておりませんので、仕訳は発生しません。
2)Aさんは出張終了後に領収書を会計担当へ提出し、飛行機代現金50,000円を受け取った
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
旅費交通費 | 50,000 | 現金 | 50,000 |
Aさんは立て替えをしていたのですが、会社としては、誰かの費用を立て替えたわけではなく、旅費交通費として支出をしていますので、立替金という勘定科目はでてきません。
仕訳は、会社目線で行うことがポイントです。立替金は、あくまで会社が立て替えたときに使用する勘定科目となりますので、注意してください。
4.立替金が回収されなかったらどうなる?
冒頭でも紹介しましたが、立て替えていたお金が戻ってこなかった時はどうなるのか?というお話です。
会社が立て替えていたお金が、相手方の倒産などによって、回収出来なくなることを「貸倒れ」と言い、貸し倒れた損失金額を計上するための勘定科目は「貸倒損失」を使用します。これは、損益計算書の「費用」の勘定科目となり、借方に記帳します。
貸倒れた時の会計処理は、貸倒引当金を設定しているかどうかで変わってきます。
また、ここで難しい言葉が出てきましたね。
「貸倒引当金」とは、貸したお金が返ってこないことを想定して、あらかじめ計上しておく時に使う勘定科目です。貸借対照表の「負債」の勘定科目ですので、貸方に記帳します。
実際に仕訳を切ってみましょう。
1)貸倒引当金を計上していなかった場合
例)くもり会社は、本来あめ商事が支払うべき配送料20,000円を立て替えていたが、あめ商事が倒産したため回収できなくなった。
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
貸倒損失 | 20,000 | 立替金 | 20,000 |
貸倒損失は費用勘定なので、借方に記帳します。そして貸方は、貸倒損失に振り替わることになった立替金です。
2)貸倒引当金を計上していた場合
例)くもり会社は、本来あめ商事が支払うべき配送料20,000円を立て替えていたが、あめ商事が倒産したため回収できなくなったが、貸倒引当金に5,000円を計上していた。
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
貸倒損失 | 15,000 | 立替金 | 20,000 |
貸倒引当金 | 5,000 |
損失分に、負債として貸方に計上されていた貸倒引当金を充てることになりますので、貸倒引当金の減少として借方に記帳をし、それでも足りない分を「貸倒損失」として計上します。
立替金が回収できないからといつでもどれでも損失にできるわけではなく、「貸倒損失」は、認められる要件が決まっています。損失可能な要件については、難しい話になりますので、ここでは説明しませんが、気になる方は以下の国税庁のHPをご覧ください。
No.5320貸倒損失として処理できる場合:(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5320.htm)
まとめ
立替金と似ている勘定科目の仮払金や貸付金との違いなどを紹介しながら、立替金について説明しました。
おさらいをしておきますと、立替金は、会社の費用ではないものを一時的に立て替えるときに使用する勘定科目です。また、仮払いは、会社の費用となるものですが、現段階で金額が確定していないため、とりあえず概算で支払うものときに使用する勘定科目、貸付金は、お金を貸すときに使用する勘定科目という違いがあります。これらは似てはいますが、明らかに用途が異なりますので、間違えないように気を付けましょう。
あと、立替金は基本的に支払った分は戻ってくるはずですが、万が一戻ってこないときは、会社の損失となりますので、注意が必要です。